採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年7月13日セミナーを開催。デル・テクノロージズ株式会社が展開する研修型雇用の取り組みと可能性について議論しました。
はじめに
2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして1年以上が経ち、これまで3000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。
- 障がい者雇用のはじめ方がわからない
- 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
- 相談する場所がない
- 新卒採用と兼業で手が回らない
- トップが障がい者雇用にネガティブである etc
障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。
そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、
職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に30社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。
ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。ゲスト
デル・テクノロジーズ㈱ 人事本部 プログラムリード / トレーニング・オーガナイザーの遠藤忍(えんどうしのぶ)さん。障がい者向け研修型雇用プログラム「キャリアサポートセンター(CSC)」のプログラムリードとして、カリキュラム開発・研修コンテンツ整備・現場部門との連携・採用を見越した外部発信などを担当。2019年から2022年まで、認定NPO法人Teach For Japanのフェローとして、福岡県飯塚市の公立中学校で英語の常勤講師として勤務し、特別支援教育の一端に触れた経験を持つ。
紹介記事:【人事の課外活動#05】越境体験をしたからこそ、新たなキャリアの文脈に辿り着けた – iroots log.ゲスト
デル・テクノロジーズ㈱ 人事本部 フィールド・トレーナーの新濃彩花(しんのあやか)さん。知的障害(愛の手帳4度)・発達障害(ADHD・PDD)の当事者で、デル・テクノロジーズ障がい者向け研修型雇用プログラム「キャリアサポートセンター(CSC)」の訓練生として入社。1年間の研修プログラムにおいて、主に他者とのコミュニケーションの取り方についてトレーニングを積む。2022年より、同プログラムのフィールド・トレーナーとして、訓練生に対する研修のデリバリー、1on1等を通じた支援・育成を担当。
紹介記事:障がいと共に生きる私が描くインクルージョンの在り方──「障がいに、恥ずかしさも戸惑いも要らない」|デル・テクノロジーズ株式会社 (talent-book.jp)
今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナー「デル・テクノロジーズの研修型雇用」についての活動レポートをお届けします。
当日は19社の採用担当者や福祉サービス事業者にご参加いただき、デル・テクノロジーズの研修型雇用の取り組みを学び、自社導入の可能性などについて検討しました。
安心から定着を目指す研修型雇用とは?
≪デル・テクノロジーズ株式会社の会社概要≫
事業内容:デル・テクノロジーズ製品、ソリューション、サービスの販売ならびに保守業務
設立:1989年6月
資本金:3憶500円
所在地:東京都千代田区大手町一丁目2番1号 Otemachi Oneタワー 17階
従業員数:3,108人(2023年4月現在)
デル・テクノロジーズは、障がい者雇用の取り組みとして、キャリアサポートセンターにて障がい者を訓練生として雇用したうえで1年間の研修プログラムを経て部門へ配属する研修型雇用を実践しています。まずは研修型雇用について説明いただけますでしょうか?
遠藤忍
研修型雇用はあまり聞き慣れないワードかもしれませんが、外資系IT・ソフトウェア企業では既にいくつか事例があります。イメージとしては即配属となる直接雇用(障がい者雇用)と福祉サービスである就労移行支援の間を取ったような仕組みで、訓練生として雇用することで障がい者雇用の一定枠を確保しながら、スキル訓練と共に実務経験を重ね、時間をかけて当事者の特性と適性を見極めることを可能にしています。配属部署との期待値調整の時間も確保できるので定着にも効果的な仕組みと考えています。
プログラミング学習などスキル面に焦点を当てる同業他社様もある一方で、デル・テクノロジーズの研修型雇用プログラムでは「貢献(Contribute)」「継続(Sustain)」「挑戦(Challenge)」をコンセプトにしています。ハードスキルよりもコミュニケーションに重点があります。どのような考えのもとでプログラムが設計されたのでしょうか?
遠藤忍
私たちのパーパスは「人類の進歩を牽引するテクノロジーの創出」です。また、カルチャーコードにおいては、「お客様」を重要視しており、多様なお客様のニーズに応えていきたいと考えています。ここに、障がい者雇用をビジネス文脈で取り組む必然性があります。私たちトレーナーは、障がい者雇用で働くメンバーをかわいそうな人たちではなく、組織や社会を前に進めていくチェンジメーカーであるという発想で捉えています。メンバーそれぞれが成長・進歩することで、組織貢献や働く意義を実感し、自己効力感へ繋げていく。そうして、障がい当事者が組織にまじわることで、組織内に「多様な一人ひとりへの慮り」が広がっていく。そうすることで、多様なお客様の支援を実現させていく、という、Diversity&Inclusionの文化づくりの一翼を担う取り組みと位置付けています。
新濃彩花
Dell Technologies Japanは、セールスとサービスサポートがメインです。そのため、特定のITスキルに特化するのではなく、ビジネスにおけるコミュニケーションに重きを置き、さまざまな仕事において能力を発揮できることを目指すプログラムにしています。それを、組織への貢献と、本人のキャリアへの挑戦に繋げることを目指しています。私自身も知的障がいと発達障がいの当事者として、2021年からトレーニングプログラムを受けてきました。入社当時、スキルを中心とした実務そのものではなくコミュニケーションに課題があり、トレーニングを重ねました。今では私自身がトレーナーの立場に就き、これまで習得してきた学びをアウトプットし、プログラムに落とし込むように心がけています。
1年間の訓練が終了した後はどうやって配属先を決定するのでしょうか?
遠藤忍
研修プログラムを終えた修了生は、現場部門とビジネスサポートグループのいずれかの配属となり、それぞれの訓練評価から適性を鑑みて配属を決定します。プログラム発足以降、現場部門6名、ビジネスサポートグループ14名の配属を実現しています。
セミナー参加者とのQ&Aセッション
当日は、セミナー参加者からもたくさんの質問をいただきました。
Q.これまでは特例子会社として知的障がい者の採用が中心でしたが、今後精神障がい、発達障がい者の採用を本格的に始める予定です。職域の開拓や制度設計など気を付けるべきことがあれば教えてください。
新濃彩花
知的障がい者への支援の場合、できない前提で動きがちだと思うんですが、発達障がい、精神障がい者だと「できない」というレッテルに傷ついたり、モチベーションが低下してしまうこともあるので障がい種別により注意すべき点が異なると思います。最終的には個別対応になってしまうと思いますが、社内に相談窓口を設置するなどの事前準備は重要かもしれません。
遠藤忍
精神障がいの特性があれば、感情の浮き沈みは必ず起きるので、振り返り(リフレクション)の機会をしっかりと作ることが大切だと思います。原因と対処法を検討したうえで入社前に検討した合理的配慮事項を再度見直す、アップデートを重ねていく必要があります。また、発達障がいの場合は、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale、通称ウェイス:ウェクスラー式知能検査)の結果をもとに傾向分析をしながら、研修でのふるまいなどを踏まえて特性への理解をアップデートしています。
今日お話しした、プログラムの背景にある考え方、それに基づく実際のプログラム構成、そして配属先開発や支援機関連携については、こちらの記事(障害者雇用の企業事例|デル・テクノロジーズ株式会社 (litalico.jp))にまとめていただいたので、そちらも併せてご覧ください。
Q. A型事業所を運営していますが、地域の中小企業より障がい者雇用に対して敬遠されることが多くあります。福祉サービス事業所から企業に対して障がい者雇用に必要な整備すべき事項を提案できればと思っていますが、何かアドバイスはありますか?
新濃彩花
障がい者雇用の経験がないと不安感が強まりますし、設備面や制度面ばかり整えたとしても不安が払しょくされることはないと思います。企業に対しては定着支援含め常に相談できる距離にあることが大切ですし、利用者に対しても戻り先があることが大切だと思います。
遠藤忍
いかに認知や理解を促していくかというのは本当に大変だなと思います。私たちも配属部署に対して「ラベリングを気にせず接してください」と伝えていますが、なかなか難しいのが現実ですね。互いが本当の意味で理解しあうという理想からはやや離れるものの、現実的な路線として、配属される当事者側がチェンジメーカーという意識を持ってもらうよう働きかけています。そうすることで、自分で道を切り開くコミュニケーションを粘り強く実践していくことが可能になり、少しずつ組織が変革されているかなと思います。
セミナー参加者のアンケート結果
■セミナー満足度
非常に良かった:83.33%
良かった:16.67%
- トレーニング・オーガナイザーとフィールド・トレーナーという役割が違う2人の現場レベルでの意見や考え方を、それぞれの視点から聞けたこと。
- 障がい者雇用の担当者が無意識にあるラベリングをベースに当事者と関わってしまうことが可能性を狭めている事実を受け止め、あるべき姿やスタンス等、深い部分まで伺えたこと。
- 自分のかかわり方や考え方が間違っていないことが確認できた。
- 研修型雇用の運用を知ることができた。会社として姿勢を示され、実践されているところに刺激をいただきました。
- 研修型雇用と言っても様々な形があると思いますが、その研修後のキャリアやサポートについても体系的にまとめられており、とても参考になる内容でした。
- 当事者である方がサポートメンバーとして入り、様々な社内での取り組みをされていることによる効果や実績についても興味深かったです。
- 同じ職場の中でもしっかりとマッチングさせていくための仕組みを体系化されておりとても参考になりました。
- まだまだ事業が小さいのでフルパッケージでの仕組み作りの難しさを感じていたのですが、ひとつひとつ、という言葉を聞いて、こちらでも少しずつ働きやすい環境を整えていこうと思いました。
- 障がい者雇用を推進している企業の具体的な取り組みを聞くことが出来て大変参考になりました。
- 研修型雇用について知りたいと思い参加しましたが、思いがけず貴重なお話が聞けて良かったです。会社の方針、温度感に左右されることもありますが、できることをやっていきたいと思いました。
- 部門のビジョンとそれに基づく具体的アクション、自社内でも意識していきたいと思います。 今後また機会があればお話し伺いたいと思いました。
障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)についての詳細はこちらをご覧ください。
第5回障がい者雇用担当者交流会FLATセミナー開催のご案内
好評につき第5回 FLATセミナーの開催も決定しました。
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■テーマ
\業界トップ企業が実践する/
効果的な求人票の書き方
日時:9月21日(木)12時~13時
方法:Zoomによるオンライン
定員:30社まで
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※募集を終了しました。