第1回 障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)セミナー「はじめての障がい者雇用に取り組むための流れがわかる」

初めての障がい者雇用に取り組むための流れを説明するコミュニティイベントのバナー。元外資系人材会社の担当者が語る、採用・定着・法定雇用率報告の進め方を学べるイベント情報が含まれている。

採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年3月23日(木)に第1回セミナーを開催。初めて取り組む障がい者雇用の流れと課題について検討しました。

はじめに

2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして1年が経ち、これまで3000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。

  • 障がい者雇用のはじめ方がわからない
  • 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
  • 相談する場所がない
  • 新卒採用と兼業で手が回らない
  • トップが障がい者雇用にネガティブである etc

障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。

そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に20社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。

今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナー「はじめての障がい者雇用に取り組むための流れ」についての活動レポートをお届けします。

ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。

ゲスト
元障がい者雇用専任担当の永原愛菜さん。2023年2月まで外資系人材会社で2年間、社内で初めての障がい者雇用専任担当として採用活動から定着支援、行政対応まで幅広く活動していました。

オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。

当日は16社の採用担当者に参加いただき、障がい者雇用について課題を検討しました。

理解のあるマネージャーを探すことから障がい者雇用が始まる!

<外資系人材会社の現在値>
・採用にはヘッドカウント承認が必要
・ボードメンバーへ日本の障がい者雇用の概況と法律の説明が必要
・派遣スタッフも実雇用率算定の母数にカウント
・人件費予算は人事ではなく現場(受け入れ部署)に付く
・社内で初めて専任担当を設置
・法定雇用率は未達成

FLAT(ふらっと)では、障がい者雇用カードの作成に挑戦しています。それぞれのステータスで採用担当者が心掛けること、行動や方法の選択肢が可視化されることで適切な障がい者雇用の後押しになればと考えています。本日のセミナーは障がい者雇用の基礎となる採用活動について焦点を当てたいと思います。

障がい者雇用における採用プロセスの詳細なフローチャート。基礎編では母集団の作り方や面接のやり方、応用編では現場での理解浸透や役割サポートの方法、知識編では法律や成功事例などが紹介されている。

まずは障がい者雇用専任担当に着任してからの採用活動を始めるまでの流れについて教えてください。

永原愛菜さん
これまでの障がい者採用は中途採用担当者が兼務しており、派遣スタッフ向けの社会保険手続きや給与処理などの事務センターを中心に限定的な採用活動となっていました。私の役割は、事務センター以外での新規ポジションの創出であり、ボードメンバーとのヘッドカウントの交渉から始まりました。従来のような事務職だけでなく、派遣コーディネーターのような内勤営業職に焦点を当て、母集団形成においても採用予算がなくハローワークやホームページのみの掲載だったところを求人媒体や就職イベントへの参加など新規の有料チャネルを積極的に活用するようになりました。

また、現場マネージャーの多くは障がい者採用の経験値がありません。面接に向け現場マネージャーと共に質問事項や判断基準を検討し、選考を繰り返す中で随時更新して進めますが、人件費予算が所属部署にありインセンティブや評価にも大きく影響を及ぼすため採用目線はシビアに組み立てていたのを覚えています。

法定雇用率を念頭に置いた雇用枠を埋めるための採用と生産性を上げていく採用とでは矛盾が起きると考えています。専任担当が設置された目的は法定雇用率の達成のためだったのでしょうか?

永原愛菜さん
法定雇用率の達成が一番の目的だったのは間違いありません。ただ、CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)の根幹の考えとして、やりがいや意義のある仕事をしないと企業も個人も成長しないというのがあり、障がい者採用だからではなく、通常の採用と同様に生産性を上げるためのポジションづくりを心掛けていました。

生産性に焦点を当てると障がい種別を限定したがったりと受け入れ部署とのコミュニケーションの壁が高くなる気がしますが、いかがでしょうか?

永原愛菜さん
実際に「身体障がいの方限定でお願いします。」と言われることもありましたが、既に人事部門で精神障がい・発達障がいの方がサポート職ではなく即戦力性を持ったポジションで働いていたこともあり、知らないがためにある無意識の偏見は解消していきやすかったというのはあると思います。

人件費予算が配属部署にある場合、障がい者採用ではなく新卒や中途社員を受け入れたいというマネージャーも多い気がしますが、どのように採用を実現していたったのでしょうか?

永原愛菜さん
障がい者採用は人事に責任があるため各部署にお願いするというスタンスに成らざるを得なかったため、人事と同じ目線で会社や社会に必要な取り組みとして検討できる視座の高いマネージャーに協力してもらう必要がありました。やはり生産性に焦点が当たると漠然とした不安から拒否反応を示すマネージャーもいた現実があります。

人事に共感して協力者となる、仲間になってくれるマネージャーの傾向はありましたか?

永原愛菜さん
障がい者採用の可能性について質問したときに、「関心がある」「前に一緒に働いたことがある」など前向きな声がある方は仲間になってくれるマネージャーだと思います。「あ~、やらなきゃいけないのはわかってるんだけど…」と反応されると難しいだろうなと感じます。

また、関心の高いマネージャーはLGBTQや女性活躍推進など他の活動にも積極的に顔を出しているのが特徴で、総じて成績の良いマネージャーな気がしています。

本当は全体が同じ熱量や方向性があると良いのですが、なかなか難しく、まずは少人数でも仲間を集めて頑張るところから始めました。

採用プロセスに職場見学や実習は入れていましたか?また、選考後の入社までのプロセスも教えてください。

永原愛菜さん
事務センターでは希望があれば職場見学や数日間の実習も受け入れていました。派遣コーディネーター職(内勤営業職)は完全在宅勤務のため面接だけで判断しているのが現状です。合格者にはメールと電話で合格理由と期待することを伝え、入社に向けた事務手続きに移行していました。

精神障がい・発達障がいの方においては就労支援機関との連携がない場合、入社日までに就労支援機関との連携と支援員の紹介をお願いしており、支援員を含めた定着支援への体制作りを心掛けていました。

採用活動から定着支援に関する現時点の課題を教えてください。

採用から入社までをぐるぐると回していても法定雇用率は未達のままで、受け入れ部署の偏りも依然としてあり、社内への理解浸透、定着支援、新規ポジションの創出における課題は残ったままでした。人事部門としての取り組みの限界もあり、2023年1月からは改めて経営課題と捉え、ビジネス部門を中心に部署横断型のプロジェクトチームを発足し主体的に雇用推進を目指すことに決まりました。人事が進捗管理や必要な承認を得るという事務局的役割を担うことになっています。

障がい者雇用のための戦略フローチャート。基礎編、応用編、知識編に分かれ、採用の各ステップを詳細に説明。ポイントとして、トップを味方にすること、母集団形成、面接方法の確認、入社前のフォロー方法などが強調されている。
オンラインホワイトボードmiroを使用して議論

質疑応答

Q.障がい者雇用の理解浸透について資料を活用した取り組みは実施しているが、一緒に働くイメージが付かないという意見も多くあり、具体的な方法が無くて悩んでいる。

永原愛菜さん
人事が先陣を切って事例を作ることがわかりやすいと思いました。障がい種別や職種においても失敗を恐れずに挑戦してノウハウを貯めていくことが大切な気がします。もし人件費予算が人事付きであれば、協力してもらえる仲間と共に他部署でも職域開拓に挑戦していけると良いと思います。

中塚翔大
全国の例を見ると人件費予算は、人事付きが多い印象を受けます。永原さんの配属時期と同時に現場予算に変更されたようですが、どんな理由がありましたか?

永原愛菜さん
入社後の定着支援、育成、キャリア支援は一緒に働く現場が見るべきという考えがあり、予算も現場付へ変わった背景はありますが、現場からの反発があるのも否定できません。都度、説明を繰り返しながら進めているのが現状です。

Q.業務の切り出しへの意識はあっても実際に切り出せる業務がないとの返答が来てしまう。毎年コンスタントに採用枠を確保することができず難しさを感じます。

永原愛菜さん
受け入れ部署に偏りがあり、ポジションの創出は常に苦戦していました。とくに着任1年目は60名以上の採用に挑戦したため時間もなく大変でした。ただ、2年目以降は採用フローも構築できて受け入れ部署にオーナーシップを持って動いてもらえたので、空いた時間でヘッドカウントの承認やポジションの創出へ専念していたのを覚えています。

中塚翔大
人件費予算が現場付きだからこその役割分担ですね。個人的には会社としてのビジョン設定が重要と考えます。業務の切り出しという表現は法定雇用率ありきの採用になりがちで、当事者のキャリア育成とは乖離が生まれやすい表現だと感じます。生産性を求める視点も入れることでポジション創出の可能性は広がるのではないでしょうか。

永原愛菜さん
ペーパーレス化も進んでいて事務処理もなくなってきており、業務の切り出しは限界が近い気がします。私たちも「障がい者雇用=事務職」という潜在的な感覚から脱却したときに色々なポジションが見えてきましたし、定着の実績ができると広がりも見えやすくなるのではと考えます。

Q.IT企業でプログラマの仕事しかない現状があります。管理部門もデジタル化されており、業務も切り出せません。無理やり必要のない仕事でも作る必要があるのでしょうか?また、プログラマーで休職後、復職できずに退職を迎える人間も多く、現場としても障がい者雇用を敬遠しがちなところもあります。

中塚翔大
前述のとおりでペーパーレス化により業務の切り出しが難しくなっている現状はありますよね。だけど、法定雇用率のために必要のない仕事を作り出すという考えは本質的ではないでし、避けるべきですよね。プログラマーは障がいの有無に限らず争奪戦ですし、採用は大手企業がどうしても有利になる実情もあるため、難しさがありますし、多角的に検討しながら何かしら工夫をしないといけませんよね。

Q.現場担当者の理解の無さから働く側に学習性無力感が生まれており、相談できない状態があります。当事者からは現場へは伝えないで欲しいと言われており、互いの関係性を悪化させずに解決する方法があるのか知りたい。

永原愛菜さん
私たちは入社後、3ヶ月間はアンケートを実施し、必要に応じて面談をしています。当事者の声があったときに心掛けているのは現場担当者の理解の無さがどの程度あるのか事実確認を慎重に進めながら対応するようにしています。理解の無さがあるということであれば、障がい者雇用に限らずマネジメントとしてのスキルの未熟さがあると考えてマネジメント視点で指導を行っていました。

中塚翔大
関係性が破綻した後の対応は限界がありますよね。いかにリスクを察知するか、如何に予防するかに注力することがまずは大切な気がします。

永原愛菜さん
未然に解決することの難しさは痛感していますが、少しでも早く察知できるように働く側にも受け入れる側にもアンケートは実施していました。

ゲストからのメッセージ

さいごにゲストより感想をいただきました。

永原愛菜さん
皆さんの質問などを聞いて、「わかる〜」と共感するものばかりでした。共感する一方で、その場合はどのようにすれば良いのかなど最適解がわからず、また自身が障がい者採用担当としてできていなかったことを再認識し、もどかしさを感じました。このように各担当者の方が実際に感じている悩みなどを共有し、色々なアイデアや意見を交換しながら少しずつ課題を解決していけるようなコミュニティになると、とても心強く素敵だなぁと思います。

セミナー参加者のアンケート結果

■セミナー満足度
非常に良かった:50%
良かった:25%
普通:25%

セミナー満足度の理由をお聞かせください。

  • 今まで経験していた情報交換の場や事例検討の場などとは違い、ツールにより現在地や流れが分かりやすかった。
  • その場で登壇者が話をするのではなく、事前に準備したうえで事務局の皆さまが短い時間で最大限の効果を意識してくださっているのが分かりました。そのおかげで密度の濃い時間となりました。
  • 障がい者雇用を人事だけでやる必要はないというお話は、新しい視点でとても興味深いものでした。
  • 1つの企業さんにスポットを当て、障がい者雇用の一連の動きを網羅的に知ることができた。1時間など時間が足りない感じがしました!
  • 同じ人材会社でしかも同じ外資で、障がい者雇用を担当されていたとのことで、共通する部分も多く、参考になりました。

障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。

障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)についての詳細はこちらをご覧ください。

障がい者雇用担当者交流会「FLAT」のバナーイラスト。誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会を目指す交流会のコンセプトが描かれている。

第2回障がい者雇用担当者交流会FLATセミナー開催のご案内

好評につき第2回 FLATセミナーの開催も決定しました。

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■テーマ
ダイバーシティの力で競争力を高める
~多様な特性を活用したアクセシビリティ向上の取り組み~
■ゲスト
株式会社SmartHR
プログレッシブデザイングループ マネージャー
桝田 草一さん

日時:5月17日(水)12時~13時
方法:Zoomによるオンライン
定員:30社まで
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申し込みはこちらのリンクからお待ちしております。
https://form.k3r.jp/parachannel/seminar230517

※募集を終了しました。

ダイバーシティの力で競争力を高める方法を紹介するコミュニティイベントのバナー。特定非営利活動法人や株式会社の代表取締役が、多様な特性を活用したアクセシビリティ向上の取り組みについて語る。
アピールしたい職歴・スキルだけで応募できる!
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パラちゃんねるは、株式会社キャリアートが運営する多様性を推進するプロジェクトです。このプロジェクトは、障がい者雇用に特化した求人サイトを通じて、「誰もが特性を活かせる、多様性のある社会」を目指しています。パラちゃんねるは、求人サイトだけでなく、ラジオ番組やコラムサイトを通じて、多様な価値観や特性について広く知識を共有するメディア活動も行っています。
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