障害者雇用率は年々上昇し、多くの企業にとって障害者雇用が身近なミッションとなっています。
面接で聞くべきこと、受け入れる際に周辺の従業員にどのように周知すべきか、トラブルがあった際は誰に頼れば良いのか……など多くの疑問と不安があると思います。
障害者雇用のコンサルタントが書く記事はたくさんありますが、障害を持つ当事者からの視点での記事はほとんどありません。
精神保健福祉士であり、そして精神疾患を有し障害者雇用で働く当事者である私がその視点で記事を書きたいと思います。
この記事はシリーズとして連載中です。初回の『発達障害』を皮切りに、前回の記事は『うつ病』にフォーカスした記事を書きました。今回は『双極性障害(躁うつ病)』に特化した記事となります。医学的な視点というよりは、障害者雇用、つまり会社においてという部分を前提に執筆してゆきます。
「うつ病」と「双極性障害(躁うつ病)」の違い
本記事では医学的な話をあまりする予定はありませんが、混同されがちな部分なので記事の内容の明確化のため定義の話を少しさせてください。前回の記事「うつ病編」でも触れておりますのでご参照ください。
まず「うつ病」も「双極性障害(躁うつ病)」もどちらも「気分障害」という大カテゴリに属します。
「うつ病」は日常生活に支障をきたすレベルの気分の慢性的な落ち込みが一定期間以上継続して続くことです。前回記事をご参照ください。
そして今回取り上げる「双極性障害(躁うつ病)」は気分の低下と気分の高揚の両方を一定の期間ごとに交互に引き起こす病気です。高揚状態にあることを「躁状態」と呼びます。テンションが高く会話が止まらないなどの症状が現れます。
双極性障害(躁うつ病)の人に面接で聞くべきこと
双極性障害(躁うつ病)は他の精神疾患と比較して通院と服薬が非常に重要です。なぜなら「うつ状態」と「躁状態」の時で処方される薬が異なり、医師と綿密にコミュニケーションを取りながらその時の自身の精神状況に適した処方の調整を繰り返す必要があるからです。
精神疾患を持っていると、症状的に優れない時に通院や服薬を蔑ろにしてしまうことはしばしば起こり得ます。
「自分で通院できるか」や「通院頻度はどれくらいか」や「服薬を忘れないための工夫をしているか」などを聞くことで安定した出勤ができるかどうかを間接的に試すことができます。
「双極性障害(躁うつ病)」の周囲のスタッフへの周知方法
「双極性障害(躁うつ病びょう)」は「うつ病」と同じ「気分障害」のカテゴリに属することは事実ですが、似て非なる精神疾患です。多くの方の持つ「うつ病」の知識や先入観だけで接すると双方にとってハレーションを引き起こしてしまう可能性があります。
故に本記事上部でも取り上げました「うつ病」と「双極性障害(躁うつ病)」の違いは、受け入れの際に周囲のスタッフに重点的に共有すべきこととなります。
そして「躁状態」と「うつ状態」の時によってある程度コミュニケーションの取り方を変更する必要があります。ひとりひとり価値観や感じ方は異なるので絶対的な正解はありませんが、下記に一般論としての方向性の例を記載いたしますので、参考にしていただけると幸いです。
「うつ状態」のとき
- 「元気出して!」「頑張れ!」のような体育会系の応援を控える
- 作業スピードが落ちてしまう可能性があることを理解して業務を割り振る
- かなりしんどそうに見える時は休憩や休みを取ることを勧めてみる
「躁状態」のとき
- 頑張りすぎてしまいがちなので、過度に業務を割り振らない
- 「躁状態」であることに対して皮肉を言わない
- あまりに「躁状態」が強すぎると感じる時はそっと通院を勧めてみる
「双極性障害(躁うつ病)」の人に長く働いてもらうための工夫
障害者雇用の課題のひとつには離職率の高さ、職場適応の難しさが挙げられます。そこで同シリーズ記事で共通して推薦しているのがリモートワークの導入です。多くの障害者にとってスーツを着て満員電車で通勤する行為は大きなストレスになります。それを週に数日だけでも無くすことは体調の安定に繋がり、離職率を下げることに繋がります。
その他「双極性障害(躁うつ病)」の方への工夫としては、躁状態の時にした決断は後程もう一度本当にそれで良かったか確認することです。躁状態の時は気が大きくなり普段とは異なった選択をしてしまうことがあります(例えば、受けたくない仕事を受けてしまう)。躁状態が終わりそれを後悔したまま仕事をすることは強いストレスとなり、早期退職へつながってしまうケースがあります。 ですので、何かを決めてもらった後でも「嫌になったらいつでも言ってくれて大丈夫ですからね」というような一言を添えておくことで、本人としても切り出しやすくなるでしょう。
まとめ
精神疾患は身体疾患と比較すると目に見えにくいぶんイメージがしにくく、それを不安に感じる部分もあるかとは思います。しかしきちんと各疾患ごとの基本的な特徴を捉え、それをベースに個人個人と綿密なコミュニケーションを行うことで双方の納得する働き方を叶えることはできます。
今後も企業担当者様向けの障害者雇用に関した記事を執筆していく予定です。ぜひそちらもご覧いただけますと幸いです。