地方での障害者雇用~地域格差の壁について

曇り空の下、草の上に寝転んでリラックスしている人。

「年収300万円ですかぁ…。そーですね…」
転職エージェントの顔が曇る。それまでハキハキと受け答えしていたのに、年収の話になった途端に急にトーンダウンしてしまった。

こうなるのも分かってはいたけど、こっちだって聞かなくちゃいけない。何せ、結婚して家族だっているのだから。

内定が決まらない現実

エージェントは重い口を開いて、
「この地方だと年収300万円台の求人は正直少ないですね。専門的な資格を持っていたら、話はまた少し変わってきますけど…」

資格かぁ、自動車の運転免許証の以外には、高校の時に取った電卓検定くらいしか無い。

「無いですね…」

その後、2、3言葉を交わして電話を切る。
ため息を一つ吐いて、「やっぱりか…」の言葉しか出てこない。

その後も、中々内定が決まらず、とうとう転職エージェントから苦し紛れに、こんなことを言われた。

「ご家族や親族の方で東京近郊に住まわれている方はいませんか?」

「えっっ!!??」と、驚く僕。
(東京近郊に引っ越せば、仕事を紹介出来るかもってこと?)

さすがに断った。
(そもそも東京近郊に親族はいないし)

都市の高層ビル群を下から見上げた風景。青い空とビルの対比が印象的。

再びの転職活動

それから7年後、色々とタイミングが重なり、僕は再び転職活動をしてみるこことなった。

日本3大都市圏の一つと言われる名古屋。僕はそこから快速電車で30分ちょっとの岐阜県の街に住んでいる。

都市部の方が当然、障害者雇用の求人は質でも量でも岐阜より多いので、名古屋近郊でもエリアを広げて求人を探してみる。

ハローワークの検索端末の扱いづらさに格闘しながら(求人票の画面を消そうと思ったら、検索画面そのもの閉じてしまうボタンの罠に2回ほどハマる)、名古屋勤務で募集人数1人という条件の良さそうな求人を2件見つけた。

早速、ハローワークの担当者に問い合わせてみる。

地方と都市部の求人格差

早速、ハローワークの担当者に問い合わせてみる。

「この求人は、昨日から出ていますけど、条件良いですからねぇ…。15人ほどが応募していますよ」

「こっちは20人応募されて、既に選考で10人程採用見送りになっていますね」

追い打ちをかけるように、
「岐阜からの通勤だと、会社が支払う交通費も結構嵩むから、選考は少し厳しいですよね」

それを聞いて、履歴書や職務経歴書を書く時間の無駄のような気がしてきた。

結局応募は見送り、手ぶらは悔しいので近くのスーパーでチョコアイスを買い食いしてから家に帰ることにした。

ノートパソコンで仕事をしながら、紙にメモを取る人の手元。

条件の良い求人で採用されないのは、自分の実力不足でもあることは実際否めない。

でも、一つ言わせて欲しい。地方と都市部との障害者雇用の環境の格差はめちゃくちゃ大きく感じる。

地方と都市部の障害者雇用の現状

岐阜よりも名古屋、名古屋よりも関西、関西よりも首都圏の方が求人数は多い。

障害者雇用の専門誌をめくってみても、勤務地は東京、東京、神奈川、東京、大阪、東京…

たまに愛知があっても、自宅から通勤時間2時間近くの会社なんて現実的じゃない。多くの企業や企業グループ合同での面接会の類も東京中心で開催されている。

それに賃金面。

地方での障害者雇用はフルタイムで働いても、実家暮らしか、かなりカツカツな一人暮らしの生活を強いる事になる給与の求人がかなり多く見受けられる。そうなると多少の通勤時間を犠牲にしてでも都市部の求人を探さざるを得ない。

チャンスそのものが少ない。だから、条件の良い求人に採用倍率20倍超なんてことがザラに起きるのだ。

自分は電車で30分で大都市名古屋まで行ける場所に住んでいるから、まだマシかもしれない。これが同じ岐阜県内でも、飛騨地域の山奥に住んでいたとしたら、もっと内定までのハードルは高くなるし、条件の大幅な見直しも迫られる。

障害者雇用の未来

前回のコラムでも触れたが、自分は妻に発達障害をオープンにして、障害者雇用で働いていることを理解してもらった上で結婚をした。

もし、
・都市部から離れた地域に居住
・既に結婚してパートナーと子どもがいる

そんな人がこれから障害者手帳を取得して、障害者雇用で転職活動しようとしても、現状の条件の厳しさからクローズ就労(障害者であることをオープンにせずに就職すること)も考えざるを得ないのは容易に想像がつく。

地方はまだまだ厳しい状況に置かれているのだ。

高層ビルを背景に両手を広げて立つビジネスマン。

それでも、悲観的なことばかりだけじゃない。昨今のコロナ禍でテレワークが急速に広まっているおかげで、居住地域に関係なく働ける求人も確かに増え、オンラインでの就活イベントや面接も同様に増えた。

チャンスが地方の障害者にも増えて嬉しいが、それだけでは道半ば。障害者雇用の地域格差をしっかり埋めるまでには至っておらず、まだまだ厳しい事に変わりはない。

しかし、これまでのコロナ禍やペーパーレス社会、ダイバーシティやSDGsといった、働き方の多様性の下地がだいぶ出来つつあるので、地方であっても柔軟な勤務体系や賃金体系の求人が増えそうなのは期待できそうだ。

ここまでの僕の主張に対して、

・企業として柔軟な雇用に対応できるだけの余裕が中々無い状況
・障害者の労働生産性(コストパフォーマンス)

等、雇用主のみなさんが色々思うことがあるのは重々分かっています。

でも、実際に地方に住む人間として、こうして声を上げないと何も始まらないし、何も変化は起きないと思っている。

たとえどんな障害でも、どこに住んでいたとしても、これから就職する子どもたちにとって、障害者雇用をめぐる環境が、けっして後ろ向きな選択肢ではなく、大きな希望を持つ魅力的な選択肢として、考えられる未来になることを切に願っています。

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ABOUT ME
1989年生まれの33歳、生粋の岐阜県民。社会人2年目の時に発達障害(ADHD/ASD)と診断され、障害者雇用にて再就職。8年間勤務後、障害者の就労支援職に従事している。2019年に居場所作りや情報共有の場として岐阜市にて発達障害当事者会「発達ワークスぎふ」を立ち上げ、私生活では二児の父として、色々しくじりながらも奮闘中!!