こころの不調を抱える人が『人を支える“シゴト”』をすると言うコト⑤~理学療法士と双極症

白い壁に飾られた空白のキャンバスを見つめる男性の後ろ姿、シンプルな美術館の風景。

前回は、ボクがメンタルダウンしどんな経過を辿って双極症と診断されたか、その経緯などをお伝えしました。ボクはうつ病と診断され、また双極症と診断されてしばらくは理学療法士として働いてきましたが、色々と悩み迷い、そして理学療法士というシゴトを辞める決意をし、今に至ります。その理由について、理学療法士の持つ側面と照らし合わせながらお伝えしたいと思います。

1.感情労働と双極症

双極症は『気分障害』という精神障害の一つに分類されます。
以下は『MSDマニュアル家庭版』より引用しました。

〝精神障害のうち、長期間にわたり悲しみで過度に気持ちがふさぎ込む(うつ病)、喜びで過度に気持ちが高揚する(躁病)、またはその両方を示す感情的な障害を示す障害を気分障害といいます。うつ病と躁病は気分障害の両極にある状態です。気分障害は感情障害とも呼ばれます。感情とは、顔の表情やしぐさによって表現される気持ちの状態を意味します。〟

気分や感情って、『人間が何かをするための原動力』であったり『人間が何かをしないことの原因』となり得ますよね。

気分が良くてポジティブな感情のときには『何かをする原動力』となりますが、気分が塞ぎ込んでネガティブな感情の時は『何かをしない原因』になります。

理学療法士は感情労働者であることは以前、お伝えしましたが、感情労働者は常に感情をコントロールし、その場面に適切な感情表現をすることが求められます。

これを書いた時点で「そんなコト、双極症のボクには無理に決まっとるやん!!」って思わず口にしてしまいましたが(笑)、そもそも気分障害である双極症を患っているボクが、理学療法士という感情労働をやりこなすなんて、どれだけの苦労と努力が必要であったか、皆さんに想像してみていただきたいと思います。

2.対人援助・対人支援と双極症

ボクが理学療法士としていつも考えていたことは「どうやったらこの患者様のやる気を起こさせるか」でした。恐らく、世のリハビリセラピストは常にこれに振り回され悩まされて(笑)いると思います。

リハビリセラピストは、基本的に「患者様にして頂くシゴト」でありリハビリセラピストは「患者様のお手伝いをするだけ」なのです。

立つ練習をするにしても、食べる練習をするにしても、筋トレをするにしても、どれをとっても「患者様にして頂く」ことができなければ、始まりません。何もしていないのと同じことになってしまうのです。

つまり患者様がやる気になっていただかないと、何もできないシゴトなんですよ…ホントに。

「支援」である限り、主体は患者様であって、ボクらリハビリセラピストではないんです。

…この葛藤、ジレンマ、伝わりますかね?(笑)…

対象である患者様は、疾患や怪我、障害をお持ちであるため、一人では練習や訓練ができません。様々なリスクがあるため、それをきちんと管理したうえで行う必要があり、リハビリセラピストの専門性が必要になるわけです。

でも、そもそも御本人にその気がなければ…と言う、ループに陥るわけで(笑)。

これは『双極症と言う病気が』と言う話ではなく『ボクが』と言う個人的なお話になってしまうのですが、「やる気のない患者様に何かを無理矢理にして頂く、と言うことは絶対にしたくない」「ほんとうの意味で患者様に寄り添ったリハビリをしたい」そう思っていたので、ある意味ボクは患者様に甘かった(笑)。

いや、恐らく度を越して甘かったかもしれません。なのでボクは、理学療法士になりきれなかったのだと思います。

そんな葛藤を常に抱えながらシゴトしていました。

3.チームと双極症

ボクが理学療法士と言うシゴトをしていて、恐らくこれが一番のしんどさの原因だったと思います。
理学療法士と言う仕事が、チームの一員であることはすでにお伝えしたとおりです。

職種や肩書によって上下関係や権限に差があってはいけない、と以前書きましたが、事実は違います。

患者様には患者様の希望が
ご家族様にはご家族様の思惑が
主治医には主治医の主張が
病棟看護師には看護師の思いが
リハビリセラピストにはリハビリセラピストのプライドが
MSW(医療ソーシャルワーカー)にはMSWの意志が

それぞれぶつかり合うんです(笑)
それをどうやってすり合わせていくのか…想像してみて下さい。

そして例えば、ボクがこころの不調で病欠したり休職したりを繰り返していたら、患者様だけでなく、チームにも影響が出てくるわけです。「皆に迷惑かけている」という自己肯定感が低い状態のまま日々の業務を行うためには、相当の努力が必要でした。

デスクの上に置かれたクリップボードと空白の用紙、隣には観葉植物とカフェラテ。

4.ボクの出した結論

ボクはずっと、理学療法士という仕事は天職だと思っていたし、苦しいことや辛いこともあったけれど、喜びもありました。だから、ボクには理学療法士しかない、と思っていました。

いや、思い込もうとしていました。

理学療法士を辞める直前のボクは、もうガッタガタで(笑)自分で振り返ってみてもポンコツだったと思います。お陰で、周囲の人達を振り回し、信頼も失いました。

自分も辛い。周囲の人達も煙たがっている。そこにしがみついていても、誰にとっても良いことは一つもない。ボクはそういう結論を出し、前職を退職して、理学療法士というシゴトを手放すことにしました。

そして産業カウンセラーと言う資格を活かし、フリーランス(個人事業主)の心理カウンセラーと言う道を選ぶことにしたのです。

今のシゴトですか?
非常に楽しい(笑)そしてストレスフリー!!
だって、誰の板挟みにもならないし、眼の前のクライエント(相談者)に集中していれば良いから。しかも眼の前におられるクライエントと言うのは、基本的に「なんとかしたい!」と言う思いでボクとつながってくれているわけです。そもそも「やる気うんぬん」に振り回されずに済む(笑)

それに、産業カウンセラーの養成講座を受け、『心理カウンセリングの場で必要な態度・基本的姿勢』などを学び、多くの心理カウンセリングを経験することによって、クライエントの問題と自分自身の問題を“切り離す”事ができるようになってきたからだと、自分では思っています。

それに、自分以外の誰かに迷惑をかけてしまうこともほとんどありません(もしかしたらボクの知らないところで迷惑かけてる?かも…ですが)。

ボクは理学療法士というシゴトをしてきたことを後悔はしていませんし、そのシゴトをしてきたからこそ、心理カウンセラーと言う今のシゴトに活かされていると感じています。

すべてがボクの糧になっている、と胸を張って言える自分がいます。

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ABOUT ME
1975年岐阜県生まれ。長く理学療法士として医療機関に勤務。働きながら社会福祉士免許取得後、大学院修士課程を修了。リハビリテーション療法学修士。その後、産業カウンセラーの資格を取得。現在はフリーの心理カウンセラーとして活動中。セクシャルマイノリティ(ゲイ)であり身体障害者(免疫機能障害)であり精神障害者(双極性障害)である。