我が国における障害者雇用は1960年に成立した身体障害者雇用促進法を皮切りに知的障害者、難病患者、精神障害者と適用範囲を広げ、また雇用率もどんどん高まっています。多くの課題を抱えながらも日本社会におけるインクルージョン、ノーマライゼーションの理念がゆっくりと広がりを見せていると言えるでしょう。
その社会の成熟の中で「障害者も仕事による社会参加を」という当初の目的がある程度達成されつつあり、次は「障害者にも待遇アップを」という目標も同時に意識しても良い頃に思います。
今回はまだまだ実現には程遠い話にはなりますが、障害者雇用を推進してきた企業様を対象に、障害者雇用で働く当事者であり、精神保健福祉士でもある筆者が問題提起的な記事を書かせていただきたいと思います。
障害者にも「やりがい」や「成長の実感」が必要だけど……
障害者雇用に積極的な企業であっても現状は非正規雇用が大半であり、給与も最低賃金がベースの時間給であることが多いでしょう。正社員化や昇給の制度があったとしても、それは障害者雇用の職員には適用しないことが慣習化していることも多々あるように見えます。もちろん仕事が無く収入も無いという状態よりは、仕事と収入があることは障害者にとってありがたいに違いありません。しかし人間とは、どんな環境であっても「やりがい」や「成長の実感」が無いと次第に頑張ることができなくなってくるものです。そこに健常者、障害者の違いはありません。
労働に関する「やりがい」や「成長の実感」を得るための1番の要素は待遇アップです。昨今のインフレ傾向の社会情勢では余計に賃金アップを求める傾向が強くなっています。
そうは言っても低成長の我が国において年功序列で毎年給料をアップさせることは現実的ではありません。かといってスキルアップを促したり、責任ある仕事を任せてみたりすることは企業としてリスクに感じることでしょう。また、障害者本人にとっても過負荷となり体調を崩してしまっては元も子もありません。
勤続数年目の障害者職員の待遇アップ問題は企業の営利活動と社会貢献との狭間で難しい舵取りを必要とする難題なのです。
では、当事者であり精神保険福祉士でもある私はどうしたら良いと思うか
大前提として賃金アップに勝る「やりがい」と「成長の実感」を満たす方法は存在しません。最近は最低賃金の上昇スピードも早いのでそれを上回る恒久的な賃上げは難しいかもしれません。
でしたらボーナスやインセンティブのような形式でも良いので、やはり賃金という形での評価こそが労働への対価としては最も健全です。
しかしどうしてもそれが難しい場合はアイデアが必要になります。下記に私も含め多くの障害者が嬉しいと感じるであろうアイデアを記載します。参考にしていただけると幸いです。
①雇用契約期間を延ばす
障害者職員が有期雇用契約の場合、契約期間を1ヶ月延ばすだけでも「自分の仕事ぶりが評価されているのだ」と嬉しく感じます。
②リモートワークの日を作ってみる
リモートワークを任せるということは監視の目が無くともきっちりと仕事をしてくれるであろうという信頼の表れでもあります。労働者にとってそれは嬉しい評価です。
③たまに軽めの残業をお願いしてみる
障害者雇用においては残業が発生しないことが多いと思います。しかしあえて本人と相談の上で30分から60分程の軽めの業務を残業としてお願いしてみるのも良いかもしれません。簡単な仕事で残業代が出ると得をした気分にもなります。
まとめ
ここまで複数年勤続の障害者職員の待遇アップ問題について記載してきました。
まだもう少し先の話かもしれませんが、必ず障害者雇用における「やりがい」や「成長の実感」は社会的に解決すべき課題として取り沙汰されるようになります。
すでに積極的に障害者雇用をすすめ、本サイトでコラムを読まれるような熱心な企業の担当者様には、ぜひ率先して意識していただけましたら幸いです。