ボクは地元の高校を卒業してから医療技術短期大学に進学し、卒業と同時に理学療法士免許を取得しました。21歳で理学療法士の資格を取得してから、これまでの約30年間のほとんどを『理学療法士』と言うシゴトに従事してきました。
実をいうと、ボク自身が医療技術短期大学を受験した時(1990年代後半)というのは、リハビリセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)のシゴトと言うのは、かなりマイナーなシゴトで、ボクも自分自身が理学療法士のリハビリを受けたとか、その現場を実際に見たとか言う経験は全く無く(笑)「まだまだマイナーなシゴトだし何だか面白そう!」と言う思いだけで受験しました。
ちなみに、医療系の資格というのは、その養成課程がある学校(大学・短大・専門学校)に入学しなければならず、言い換えるとその養成課程に入学したからには、その資格のシゴトをする事が前提である、とも言えます。
ボクの場合、短大に入学し卒業して理学療法士として働き始めて、どんどんそのシゴトの面白さにのめり込んでいった、というのが事実です。
1.理学療法士とは
少し前置きが長くなってしまいましたが(笑)、改めて理学療法士というのはどの様なシゴトなのか、ご説明します。
以下は、公益社団法人 日本理学療法士協会のホームページより抜粋しました。
理学療法士はPhysical Therapist(PT)とも呼ばれます。ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門職です。治療や支援の内容については、理学療法士が対象者ひとりひとりについて医学的・社会的視点から身体能力や生活環境等を十分に評価し、それぞれの目標に向けて適切なプログラムを作成します。
理学療法士を一言でいうならば動作の専門家です。寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの日常生活を行う上で基本となる動作の改善を目指します。関節 可動域の拡大、筋力強化、麻痺の回復、痛みの軽減など運動機能に直接働きかける治療法から、動作練習、歩行練習などの能力向上を目指す治療法まで、動作改 善に必要な技術を用いて、日常生活の自立を目指します。
理学療法士は国家資格であり、免許を持った人でなければ名乗ることができません。理学療法士免許を取得した後は、主に病院、クリニック、介護保険関連施設等で働いています。近年は、高齢者の介護予防、フレイル予防、健康増進、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に対する指導、スポーツ現場、産業分野など活躍の場が広がっています。
理学療法士が働く現場を見たことがある方ならお分かりだと思いますが、理学療法士というシゴトは『肉体労働』でもあり『知的(頭脳)労働』でもあります。そしてもっというなら『感情労働』でもあるんです。
2.感情労働とは
さて、皆さんは『感情労働』と言う言葉、ご存知ですか?
以下は、HRproと言うサイトからの抜粋です。
体力を使って従事する「肉体労働」、知力を使って従事する「頭脳労働」に対して、近年、増加しているといわれるのが、感情を商品として提供する労働形態、「感情労働」です。
もともとはアメリカの社会学者A.R.ホックシールドが提唱した働き方の概念で、「相手に感謝や安心の気持ちを喚起させるような、公的に観察可能な表情や身体的表現をつくるために行う感情の管理が必要な労働」が感情労働であると定義されています。
その特色は、生身の人間(顧客)を相手とする労働であり、感情の抑制、鈍磨、緊張、忍耐などが絶対に不可欠なものとして要求されること。理不尽なことで責められたり、攻撃的な言葉を投げつけられるたりするようなことがあっても、常に感情をコントロールし、冷静に笑顔で応対する、あるいは相手の納得が得られるまで丁重に謝罪や説明を繰り返すといったことが求められます。
上の表は、感情労働を特定/不特定・対面/非対面の特徴から4つに分類したものになります。ご覧の通り、理学療法士含む医療従事者というのは『③特定の相手/対面での関わり』と言う分類に含まれます。
そして一般的に『②不特定の相手/非対面での関わり』『③特定の相手/対面での関わり』に分類されるシゴトが、特に負荷がかかりやすい、ともいわれています。
それは何故かと言うと…
①バーンアウトしてしまう
精神的な疲労が重なると情緒的エネルギーが枯渇し、精神的消耗感を生じるバーンアウトを発症する原因となります。特定の相手との関係が中長期的に続く病棟勤務の看護師や介護士のような職種に多いといわれています。
②自己避難してしまう
感情労働従事者は、「表層演技(※1)」「深層演技(※2)」をして自身の感情と職務を切り離すケースがあります。これらの演技は相手との良好な関係性を築く上で役立つこともある反面、演技を続けることで「自分は表面的な対応をしているから不正直だ」と自身を非難する可能性があります。
(※1)…自然に沸き起こる感情を自覚した上で、外見のみを状況に相応しい感情に沿って変える方法。
(※2)…「ふり」でなく、心からそう思うように働きかけ、本来の自分の感情を変える方法。
③組織やチームの士気の低下してしまう
感情労働で精神的な疲れやストレスがたまった結果、離職や休職をする従業員もいます。組織やチームで十分に対策が行われないままだと全体の士気の低下につながり、新たな離職者や休職者が出る可能性があります。これらのことから、生産性にも影響します。
なんだか、こんな事を書き出していると、「(精神疾患を抱える)ボクがよくもまあ30年近くも理学療法士と言うシゴトをしてきたもんだ…(遠い目)」と思ってしまうわけで(笑)
『②自己避難してしまう』にも書いていますが、ある意味、自分自身を守るために、自分の感情を職務と切り離すコトが当たり前になってくるのですが、それを続けていると「自分は偽善者なのだろうか?」とか「本当に患者さんのためを思って仕事しているのだろうか?」とか思い始めてしまい、とてつもなく胸が締め付けられる思いをしていた経験があります。
今回のコラムでは「理学療法士と言うシゴトが感情労働だ」と言う事をお伝えしてきました。次回は、もう一つの側面である「対人援助職・対人支援職」と言う観点から『理学療法士』と言うシゴトについてお伝えしていきたいと思います。