「複雑性PTSD」の治療中に感じた壁…心理士も患者も楽になれる“仕組み作り”に期待

医師が患者の手首から脈を取っている画像。

長期的な虐待やDVなどによって発症することがある「複雑性PTSD」。治療を1年半続ける中で私の心は良い状態になっていったが、その中では精神的負担や金銭的負担に苦しめられたこともあった。

今回は、自身が感じたカウンセリング治療の壁を紹介。心理士と患者、双方が負担を感じにくい治療の仕組みを考えるきっかけになってほしい。

①クリニック選びが難しい

割れたハート型の紙がひもに吊るされている画像。背景は黒。

カウンセリングを受けたいと思った時、最初に立ちふさがるのが「クリニック選び」という壁だ。

私の場合はトラウマ治療の知識を持つ大学時代の恩師を頼れたが、そうした繋がりがなかったら正直、治療を受けようとは思わなかっただろう。どんな点を重視して通院するクリニックを決めればいいのかが分からないし、心がいっぱいいっぱいな状態で慎重にクリニックを見極めることは難しかったからだ。

また、私にとっては過去に精神科で人格を否定されたことも治療を避ける理由となっていた。周囲でも似た経験をし、治療から遠ざかってしまった人は意外に多い。実際、中学時代の同級生は「カウンセラーなんて、みんな同じだから嫌だ」と治療を拒否し続け、包丁を自分に突きつけるほど心の状態が悪化してしまった。

そうした諦めは自分自身の心にもあった気持ちであるから、とてもよく分かる。だからこそ、現在、クリニック選びの時点で足がすくんでいる方には、まずは自分がどんな治療を受けたいのかを明確にしてほしいとのメッセージを送りたい。

例えば、不眠が辛くて、とにかくぐっすり眠りたいという場合は精神科で薬を処方してもらいつつ、短いカウンセリングを受けるところから治療に繋がるのも良いだろう。

一方で、私のように「向精神薬の副作用で眠気やだるさが出るのは辛い」や「時間はかかってもいいから薬ではない治療を選択したい」と思う方は、臨床心理士や公認心理師が運営するメンタルクリニックに頼るのも良いと思う。

どちらが良い・正解などはない。精神科とメンタルクリニックでは治療法に違いがあるため、自分が前向きに治療に取り組める治療法を選んでほしい。

②トラウマ治療の専門医が少ない

白い錠剤がボトルからこぼれ、黄色い背景に散らばっている画像。

複雑性PTSDの治療が難しい理由には、トラウマ治療の専門医が少ないことも関係している。

実は、複雑性PTSDという病名自体、2018年に公表された国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)で、新たに採用された診断項目。効果的な治療法は、国際的に手探り状態な部分もある。

複雑性PTSDは心の傷が折り重なって生じた精神疾患であると考えられているため、現状ではトラウマ治療が有効だと言われている。だが、トラウマ治療と一口にいっても傷ついた過去の自分と向き合う「インナーチャイルドワーク」や眼球運動を用いて外傷記憶への慣れと再処理を行う「EMDR」など様々な心理療法があり、心理士が得意とする治療もそれぞれであるため、自分に合う治療法に巡り合うことが難しい。

また、「トラウマ治療ができる」とホームページなどに記載されているメンタルクリニックでも実際に行ってみると、数分間のカウンセリングと向精神薬の処方のみで終わり、インナーチャイルドワークなどの、より専門的なトラウマ治療が受けられなかったという話も耳にしたことがある。

そのため、納得できる治療や信頼できる心理士と出会うにはどんなトラウマ療法が受けられるのかを問い合わせてみることも大切。SNSで気になるメンタルクリニックの情報を収集することも大事な第一歩だ。

③カウンセリングには保険が適応されない

治療中、私が一番苦しかったのは、カウンセリング料が全額自費だったことだ。私は公認心理師が運営するメンタルクリニックで、60分8000円(1回)のカウンセリング治療(インナーチャイルドワーク含む)を受けていた。精神科とは違い、保険は適応されない。

通院し始めた頃は心の状態が不安定になりやすく、週1回の頻度で通っていたため、金銭的な負担は、とても大きかった。どうにか貯金を切り崩して通院し続けたが、心が苦しくて日常生活さえままならない時にのしかかってくるカウンセリング料は厳しいものだった。

だが、この問題はカウンセリングを保険適応の診療にすればいいという簡単な話ではない。なぜなら、保険適応の診療となると今度は心理士の生活が苦しくなってしまうからだ。

そもそも日本の心理士は高給ではなく、公認心理師という国家資格も2015年に公認心理師法が施行され、ようやく設けられたものだ。

体と同じくらい大切な心を治療する専門家への待遇が見直されないことには、患者側の負担は変わらない。誰もがいつ、心を壊すか分からない今の時代、心の診療の大切さがもっと浸透してほしいと切に願う。

なぜ、私を傷つけた人が金銭的・精神的負担を感じず、自分が全てを背負わなければならないのか。心の治療中は、そういう憎しみが湧いてくることもある。

そうした感情に心が支配されると苦しくなったり、そう思ってしまう自分が嫌になったりすることもあるだろう。だが、どんな感情も持っていいもの。頑張って生き延びてきた体とそのままのを心を大事にしてほしい。

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ABOUT ME
猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。