採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障害者雇用に携わる、関心がある方々が集う障害者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2024年2月22日(木)に第10回セミナーを開催。ユニバーサルマナー検定、ミライロIDを展開する株式会社ミライロ 代表取締役 垣内俊哉さんと共に2024年4月に施行される合理的配慮の義務化について検討しました。
はじめに
障害者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」2022年1月に障害者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして2年以上が経ち、これまで5000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。
- 障害者雇用のはじめ方がわからない
- 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
- 相談する場所がない
- 新卒採用と兼業で手が回らない
- トップが障害者雇用にネガティブである etc
障害者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障害者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。
そこで、私たちは、障害者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。
障害者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に30社を超える障害者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障害者雇用のあるべき姿を模索し続けています。
今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナーについての活動レポートをお届けします。
ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障害のある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollableは、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障害の有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障害者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。ゲスト
株式会社ミライロ代表取締役 垣内俊哉さん。障害(バリア)を価値(バリュー)に変える「バリアバリュー」を提唱し、社会に存在する「環境・意識・情報」のバリア解消に取り組むことで、誰一人取り残さない社会の実現を目指しています。
当日は56社の採用担当者や福祉サービス事業者にご参加いただきました。
障害(バリア)を価値(バリュー)に変える「バリアバリュー」
≪株式会社ミライロ 会社概要≫
事業内容:ユニバーサルデザイン及びユニバーサルマナーに関するリサーチ及びコンサルティング、企画・設計・開発事業、デジタル障害者手帳「ミライロID」、ユニバーサルマナー検定など。
設立:2010年6月
所在地:大阪府大阪市淀川区西中島3-8-15 EPO SHINOSAKA BUILDING 8F
株式会社ミライロは障害(バリア)を価値(バリュー)に変える「バリアバリュー」を提唱しています。「バリアバリュー」とは具体的にどういうことでしょうか?
垣内俊哉
私は、生まれつき骨が弱く折れやすい病気のため、今日まで骨折は20回以上。手術も10数回と人生の五分の一は病室で過ごしてきました。手術やリハビリを重ねましたが足で歩くことは叶いませんでした。ですが、障害があるから、歩けないからできることもある。と気づきました。障害はもちろんない方がいいです。目は見えた方が、耳が聞こえた方が、足で歩けた方が不便も不自由も少ないです。でも不幸ではなかったと今では思います。視点を変えれば障害が価値になる。バリアはバリューへと変えていけるんだと、そう思える日本社会や世界を作っていけたらと思っています。
障害者差別解消法には不当な差別取扱いの禁止と合理的配慮の提供が定められています。差別の禁止については、タクシーの乗車拒否やアパート・マンションの入居拒否の対応等改善されつつあると感じます。2024年4月に合理的配慮の提供が努力義務から義務へ変更されることで企業はどのような準備や対応を求められるのでしょうか?
垣内俊哉
合理的配慮の提供の義務化により、本人から何らかの申し出がある以上、過重な負担にならない範囲で、オフィスや工場店舗をバリアフリー化する・コミュニケーションが困難な方に対して、手話や筆談など様々な情報伝達手段を確立しておくという対応などが必要となりますが、こうした広範囲にわたる取り組みに関して企業は課題を感じています。今回の法律改正では特に「環境」「意識」「情報」の3つの領域において事前に準備をしていかなければならないと考えています。
日本企業における現状の課題として、知識不足、経験不足による「無関心」と「過剰」の二極化があります。障害者雇用にあるバリアにおいて「環境」「意識」「情報」の3つの領域でどのような準備が必要なのでしょうか?
垣内俊哉
環境についてはバリアフリー化ですが、費用も場所も時間も必要で難易度が高いです。今後重要なことは、バリアを無くすことではなく、最初から作らないことです。コンセプト、設計の段階から十分に考慮すればバリアフリーの実現は容易ですし、仮にバリアが残った場合には情報開示をすることで補うことが重要です。
次に意識におけるバリアを解消することが大切です。障害者や高齢者に対する向き合い方、接し方を他人事ではなく自分ごとに、特別なことじゃなく当たり前のことに変えていこうという想いのもと、ユニバーサルマナー検定を展開しています。対外的なサービスだけでなく障害者雇用など、従業員の理解促進を目的に約20万人以上の方が受講いただいています。ハードは変えられなくてもハートは今すぐ変えられる。環境がバリアフリーでなかったとしてもサポートできる人がいる職場環境を作っていくことが大切です。
最後に情報については、聴覚に障害がある方や言語障害のある方に対するコミュニケーション手段の確立、手話や字幕はもちろんWEBアクセシビリティの観点が広がってきています。メール、チャットツールなどの社内で使用するツールはもちろん、自社ホームページのアクセシビリティ対応については今後アップデートをしていくことが大切です。
障害者雇用は法定雇用率ありきの採用に陥りやすく、現在もネガティブな取り組みが継続している部分もあります。今後、企業や社会としてポジティブに向き合い取り組むうえで大切なことは何でしょうか?
垣内俊哉
SDGs(持続可能な開発目標)では17の目標を掲げています。その中で、障害者に関連するものは9つあり、取り組みは誰一人取り残さない未来へと必ず寄与するものです。また、社会貢献の文脈にとどまることなく、これからは一つのビジネスチャンスとして捉えることも重要です。
障害者雇用に真摯に取り組むことで多様な方が求める商品やサービスを作り出すことができるかもしれない。多様な方が働きやすい環境を作ることで離職率の低下と共に採用コストを抑えることに繋がるかもしれない。障害者雇用に向き合うことは経済的な新しい価値にも必ず資するものです。今後、障害者が学び、働く機会が増えることで、消費者として生活を選択するようになれば、良い循環がますます進んでいくことでしょう。
セミナー参加者とのQ&Aセッション
Q.合理的配慮を始めるうえで、まず初めに取り組むべきことは何がありますか?
垣内俊哉
意識の浸透が大切だと思います。顧客サービスも障害者雇用においても特定の人や部門に知識・技術が集約され属人化する傾向があります。しかし、それぞれの場所で対応が異なればトラブルに繋がるリスクはむしろ高まってしまいます。まずは意識を会社全体に徐々に浸透させていくことが何よりも重要と考えています。
Q.障害者雇用においては人事部がトップと現場の板挟みの状態にあります。経営層とのコミュニケーションの仕方について教えてください。
垣内俊哉
組織は階層が上がれば上がるほど数字を意識します。定着率や離職率、採用コストなどまずは数字で見せることが大切だと思います。また、2023年に経団連として合理的配慮への取り組みが発信され、今後、経済団体や業界団体からのメッセージも増えていくため、そのような情報もコミュニケーションをする上で重要ではないでしょうか。
Q.障害者雇用のミスマッチを防止するための取り組みを教えてください。
垣内俊哉
やはり情報開示が重要に思います。転職、就職経験があれば、求職者からの要望も聞きやすくなりますが、就労経験が少なければ「大丈夫です。」みたいな回答しか出て来ない可能性もゼロではありません。企業側が情報開示をしてラインナップを出すことによって本人も遠慮し過ぎずに開示できる部分もありますし、情報開示の中で対話があることがミスマッチを防ぐうえで重要と考えます。
Q.入社面談では聞いていなかった内容が出てきて困ったことがあります。どう対応していけばよいのでしょうか?
垣内俊哉
やっぱりいくらでも出てくるものだと思います。私もこれまで4回の入院・手術などを経験し、一時期は電動車いすに乗っていたので、オフィスのトイレは利用できない状況でした。大きな車いす用のトイレを作ってほしい。と言われると難しいですが、「代替できる近場のトイレはどこかにあるだろうか?」と、一緒に探して考えるなど、いくらでも歩み寄れると思います。大切なのは前向きに互いに対話していくことだと感じます。
セミナー参加者のアンケート結果
・非常に良かった 57.69%
・良かった 38.46%
・普通 3.85%
- ご講演が非常にわかりやすく、自社に落とし込んでイメージすることができました。
- 垣内さんのパッション溢れるプレゼンを聞くと、障害者インクルージョンの意義ややりがいを強く感じます。
- 各社の取り組み状況について交えながらお話いただき、分かりやすくまた心に響くセミナーでした。
- 小売業であるため、お客様に対する合理的配慮は以前から取り組んでおりますが、まだ不足している部分(閑居面)があると日々感じております。
- 周知理解を促進しハード面を補えるハート面を強化していきたいと思います。
- バリアバリュー、ハードが変えられなくてもハートは変えられるなど、キャッチーなお言葉は心に響きました。
- 合理的配慮の概要や各社の事例だけでなく、こちらから情報を開示していく大切さや”配慮”は障害者向けだけでなく、結果的に全体の効率化につながっているなど今まで気づけなかったところに気付けました。
- 合理的配慮、何をどう進めていこうか分からなくなっていることもありましたが、今回お話を聴いて、まずは意識・情報から変えていけばいいんだ、と感じることができました。
- 特に情報については、気づかなかったことや、相手や誰かに遠慮してしまって共有できていなかったことが多くあるな、と思いました。
- 短時間でも心が動かされるお話でした。理想論に終始することなく、現実的な解決方法のヒントがちりばめられていると感じました。
- 他社の障害者雇用ページをご紹介いただき、早速HP確認させていただきました。当社もこんなに充実した求人情報にしていきたいと思います。
- 障害者雇用を行っている店舗マネージャーだけではなく、会社全体として合理的配慮をとらえていくフェーズにあると思い、取り組んでみたいと思いました。
今回は2024年4月に施行された改正障害者差別解消法で義務化された合理的配慮の提供について議論しました。2006年に国連総会で採択された障害者権利条約ではリーズナブル・アコモデーション(Reasonable accommodation)と明記されており、合理的配慮と訳されたことで少し難解な印象を与えているのかもしれません。そもそもアコモデーションには「適応」「折衷案」などの意味があり、相手によって変えるという「調整」と捉えると変化していく日常の中での情報開示と対話の重要性がイメージしやすいと感じました。
今後も障害者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)では、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障害者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。