採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年12月13日(水)に第8回セミナーを開催。eスポーツで障がい者就労を実現する株式会社ePARA 代表取締役 加藤大貴さんにユニット雇用の取り組みと可能性について伺いました。
はじめに
障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」は、2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして2年以上が経ち、これまで5000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。
- 障がい者雇用のはじめ方がわからない
- 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
- 相談する場所がない
- 新卒採用と兼業で手が回らない
- トップが障がい者雇用にネガティブである etc
障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。
そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、
職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に30社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。
今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナーについての活動レポートをお届けします。
ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。ゲスト
株式会社ePARA代表取締役 加藤大貴(かとうだいき)さん。元裁判所書記官で祖母のアルコール依存症と認知症による当事者家族の経験を経て福祉制度の認知度の不十分さを知り、福祉の世界へ。社会福祉協議会の成年後見センターを経て、現在はeスポーツを通じた障がい者就労と人材定着の可能性に挑戦しています。
当日は10社の採用担当者や福祉サービス事業者にご参加いただき、障がい者雇用におけるユニット雇用の可能性について伺いました。
eスポーツを通じた障がい者就労の可能性
株式会社ePARAでは主に3つの事業(バリアフリーeスポーツ事業、障がい者の就労支援事業、社会実証および共創・研究開発支援事業)を展開されています。現在、従業員8名中5名に障がいがあると伺いましたが、自社内の障がい者雇用に力を入れていった背景を教えてください。
加藤大貴
現時点で視覚障がい(全盲)2名、筋ジストロフィー1名、重度身体障がい(車いす)2名が働いています。雇用のきっかけとしては、イベント時に発達障がいの感覚過敏がある方から逃げれる、休めるような控室を用意して欲しいとの声があったことです。やはり社内に障がい者がいないと本当の意味で良いサービスは作れないなと実感しました。一緒に働くと能力の高さに常に驚かされますが、20年、30年と同じ境遇で生活する本人たちは、その能力に気づいていないことも多く、彼ら・彼女らが持つ能力を引き出すことが私の使命だと感じるようになりました。
2024年4月より改正障がい者差別解消法が施行され、民間事業者にも合理的配慮の義務化が適用されます。障がい者雇用を推進する企業においても対応に苦慮する場面が想定されますが、障がい者と共に働く中で工夫していることはありますか?
加藤大貴
「傾聴」「開示」「対話」の3つが大切と考えています。「合理的」という言葉を捉えたとしても人員的・金銭的リソースの限界があるため、スムーズな合理的配慮の提供が可能になるかどうかはわかりません。そのため、現時点の会社の考えや進捗を開示すること、そして、その中で互いの着地点を探る対話とその繰り返しが互いに働きやすい環境を見出すためには欠かせません。
「ゲーム=遊ぶ・楽しむ」をイメージする方が多いと思います。具体的にeスポーツで働くとはどのようなことでしょうか?
加藤大貴
現在、私たちはスポーツやパラスポーツなどのプロジェクトは7つを運営していますが、それぞれにプロジェクトマネージャーがいてSNS運用など広報や事務局もあるため、単純にeスポーツだけをしているわけではないんです。それに「ゲームが好き」という共通項にはゼネラリストからスペシャリストまで多種多様な人材が集まりやすく、企業の障がい者雇用を支援するうえで相性の良さを感じています。
障がい者雇用におけるユニット雇用の効果
現在、コミュニティに参加する障がい者数は150~200名になると伺っています。障がい者雇用に取り組む企業からの相談も多いと思いますが、サービス提供をするうえでのこだわりはありますか?
加藤大貴
少人数採用を目的として単発的な関係になってしまう依頼は受けないようにしています。チームで働ける環境で雇用が実現できると人材定着の効果も発揮しやすく、私たちの企業理解も高まりやすいためマッチング精度の向上にも繋がります。私たちとしては、長期的なチームとして伴走できる企業とのお付き合いを重視しています。
障がい者雇用において業務の切り出しに苦慮する人事担当者も少なくありません。障がい者雇用を推進し、ユニット雇用を実現していくためには、どのような準備が必要なのでしょうか?
加藤大貴
まず1つ目は、リモートワークの推進です。重度障がいや精神障がいがあると通勤やオフィス環境で疲弊してしまい生産性が上がらないケースが多くあります。管理面の不安は伴うかもしれませんが、思い切ってリモートワークに挑戦してほしいです。
また、2つ目としては、業務の切り出しです。障がい者雇用は人事・総務など管理部でのみ雇用するなど、経営層や現場への交渉が容易な場所に限定するケースも少なくありませんが、ポジションが限定されることで業務の切り出しの難易度も上がってしまうと考えています。障がい種別や受け入れ体制ありきの採用ではなく、まず経営課題を捉えたうえで広報、営業に課題があればウェブ制作やSNS担当として採用枠を確保したうえで、障がい者雇用で対応できるかどうかを検討すると良いと思います。
障がい者雇用の離職率は1年で平均50%以上と言われています。人材の定着においてeスポーツだからこその効果と言える成功事例はありますでしょうか?
加藤大貴
マッチングとフォローの両面で効果があると思っています。eスポーツは個人やチームで取り組み、なおかつ大会出場や優勝などの目標があるためスキル以外の適性について把握することが可能になります。例えば、大会前の緊張やプレッシャーでパフォーマンスが落ちる、練習時間に遅刻してくるなど、マッチング精度を高めるうえでの貴重な情報収集が実現できています。
また、就業時間外の部活動を通じて仲間としての繋がりがあることで職場の人間関係や就業状況などを把握する機会にもなり、先手を打った就業フォローをも実現できるため、人材定着という面で高い効果が示せていると考えています。
セミナー参加者とのQ&Aセッション
Q.障害者雇用に取り組む会社で上手く行っていると感じる事例があれば教えてください。
加藤大貴
やはり経営層が熱意を持って真剣に障がい者雇用に取り組む企業は上手く行きやすいと考えています。例えば、私たちがお手伝いしているゲーム会社は執行役員が特例子会社の社長も務めており、部活動などの余暇活動にも積極的に参加頂けるので自ずと風通しの良い社風が作られています。
Q.従業員に対して配慮事項を提供したいが、どこから始めれば良いかわかりません。
加藤大貴
車いすユーザーかどうかなど障害種別により検討する箇所が変わるとは思いますが、ぜひリモートワークは積極的に取り入れてほしいと思っています。やはり通勤ありきの就労は障害の有無に限らず負担が大きいと思います。全部でなくても一部からでも検討いただきたいです。
Q.障がい者雇用に取り組む企業にメッセージをください。
加藤大貴
法律改定によるトップダウンやハローワークからのプレッシャーで雇用を急ぐケースも少なくありません。ただ、せっかく採用しても辞めてしまえば時間も費用も高くなってしまいます。福祉サービス事業所と連携したり、まずは業務委託でユニット雇用を活用してみたり、私たちのノウハウを活用して企業の成長に伴走させて頂きたいので、まずは気軽にお問合せ頂ければ幸いです。
セミナー参加者のアンケート結果
■セミナー満足度
非常に良かった:11.11%
良かった:66.7%
普通:22.22%
- eスポーツでの障がい者雇用の想像がつかなかったのですが、一般企業以上の取り組みや考え方の幅があり、大変参考になりました。
- ユニット雇用は非常に興味があり、今後取り入れていきたい雇用形態でもあったので、参考になった。
- 製造業ですので、ユニット雇用は考えていませんでしたが、障がい者雇用で苦労している採用担当が私だけでないことがわかりとても気が楽になりました。
- 業務の切り分けをして、定着してもらえる作業となるとどのように考えていくか、あせらず、しっかり進めたいと思います。
- 障がい者雇用をしていく上で、他社の取り組みをお聞きすることは、いつも大変勉強になります。
障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)についての詳細はこちらをご覧ください。