採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年10月18日セミナーを開催。外資系企業で発達障がい・知的障がい当事者として障がい者雇用のトレーナーを勤める新濃さんをゲストにWAIS検査を活用した支援方法について議論しました。
はじめに
障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして1年以上が経ち、これまで3000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。
- 障がい者雇用のはじめ方がわからない
- 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
- 相談する場所がない
- 新卒採用と兼業で手が回らない
- トップが障がい者雇用にネガティブである etc
障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。
そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、
職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に40社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。
今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナー「WAIS検査の活用ガイド」についての活動レポートをお届けします。
ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。ゲスト
新濃彩花(しんのあやか)さん。知的障害(愛の手帳4度)・発達障害(ADHD・PDD)の当事者で外資系企業の障がい者雇用プログラムの訓練生として入社。1年間の研修プログラムにおいて、主に他者とのコミュニケーションの取り方についてトレーニングを積む。2022年より、同プログラムのフィールドトレーナーとして、訓練生に対する研修のデリバリー、1on1等を通じた支援・育成を担当。
当日は10社の採用担当者や福祉サービス事業者にご参加いただき、実際のWAIS検査結果をもとに障害者雇用の現場での活用方法について検討しました。
WAIS検査とは?
WAIS-IV知能検査はウェクスラー式知能検査の1つです。全体的な知的能力や記憶・処理に関する能力を測るテストとして使用されており、年齢に応じて幼児用のWPPSI、児童用のWISC、成人用のWAISの3つが使い分けられています。WAIS-IVは、10種類の基本下位検査と、5種類の補助下位検査(必要があれば行う検査)で構成されています。検査を行うことで全検査IQと4つの指標得点を知ることができます。
■全検査IQ(FSIQ)
全体的な認知能力を表す項目です。補助検査を除いた10種類の基本下位検査の合計から算出されます。
■指標得点
言語理解指標(VCI)
言語による理解力・推理力・思考力に関する指標です。この力により私たちは言語によるコミュニケーションをとったり、そこから推論することができると考えられています。
基本下位検査項目:類似、単語、知識
補助下位検査項目:理解
■知覚推理指標(PRI)
視覚的な情報を把握し推理する力や、視覚的情報にあわせて体を動かす力に関する指標です。新しい情報に対する解決能力や対応力にも影響すると考えられています。
基本下位検査項目:積木模様、行列推理、パズル
補助下位検査項目:バランス(16歳~69歳のみ)、絵の完成
■ワーキングメモリー指標(WMI)
一時的に情報を記憶しながら、処理する能力に関する指標です。ワーキングメモリは口頭での指示理解や、読み書き算数といった学習能力、集中力に大きくかかわることが指摘されています。
基本下位検査項目:数唱、算数
補助下位検査項目:語音整列(16歳~69歳のみ)
■処理速度指標(PSI)
情報を処理するスピードに関する指標です。マイペースで切り替えが苦手である場合なども、この指標得点が低くなることがあります。
基本下位検査項目:記号探し、符号
補助下位検査項目:絵の抹消(16歳~69歳のみ)
発達障がいと知的障がいのある当事者のWAIS検査結果からわかること
新濃さんは知的障がい(全検査IQ63)と発達障害(広汎性発達障害、注意欠如多動性障害)という3つの診断を受けています。具体的にどのような検査結果から診断を受けたのでしょうか?
新濃彩花
全検査IQは平均100と言われ、この指数が70未満の場合に知的障がいと診断を受けます。私の場合は63と表記されていますが、現在はコンサータを服用しており登壇が可能になっていますが、薬の効果がなくなると多動で歩き回り、その割に反応は鈍く、判断力も低下するためスムーズな発話も困難になっていきます。診断結果は最終的な平均点で診断されますが、個々の数値を見ていくと処理速度54、言語理解84とば凸凹とそのギャップが目立ち、得手不得手にかなりの差があると想像できると思います。
新濃彩花
より具体的に各項目の評価点見ていくとさらに顕著になります。健常者の場合は評価点19点満点中、8~11点以内に収まり、平均10点となるものが私の場合は言語理解・類似と知覚統合・積木の2項目のみとなっています。さらに各項目の振れ幅は6点以内になると言われるところが私の場合はその差は10点もあります。つまり、服薬がなければ日常生活においては苦労しかないのが実際というわけです。
一般的にWAIS検査はどれくらいの頻度で受けるものなのでしょうか?
新濃彩花
私の場合は幼少期の成長に合わせ複数回検査を受けていますが、大人になってからは1回のみとなります。特に幼少期の場合は成長過程やその日の気分にもよりパフォーマンスがかなり異なるため複数回受けたほうがより正確な数値になりやすいと考えています。
仮にコンサータを服用した状態で検査を受けるとどれくらい数値は変化するのでしょうか?
新濃彩花
幼少期に服用がある場合、ない場合で検査を受けたことがありますが、30のものが60程度に、80のものは124まで押しあがりました。薬との相性が合えばパフォーマンスは改善されるし、全く見える世界が変わります。
WAIS検査に関するQ&Aセッション
Q.障がい者雇用においてWAIS検査を活用するメリットは何ですか?また、活用した事例を教えてください。
新濃彩花
一番のメリットは数値化された検査結果があることで客観的に分析・検討ができるという点です。障がい者雇用のトラブルでは当事者も支援側も明確な原因を突き止めることができずに試行錯誤で四苦八苦する場面も多いかと思います。そのような場合にWAIS検査があると客観的な検討が可能になります。ただし、先に述べた通りで薬の服用があるか否かで全くパフォーマンスは異なるため、WAIS検査の結果ありきで支援方法まで決めてしまうと逆に危険性が高まるとも感じています。何か事象が発生した時のツールの一つとして活用することをオススメします。
Q.「WAIS検査の結果を見せてほしい。」と伝えても大丈夫なのでしょうか?
新濃彩花
信頼関係がない場合は注意が必要です。個人情報ですし、働くうえで自分の立場を不利にする可能性も秘めていると思いますので、何かしらのトラブルがあった場合に一緒によりよく働く環境を作るためにというメッセージと共に伝えることで心地よく開示ができていくかもしれません。
Q.WAIS検査を導入するときに事前に雇用される側、支援する側に伝えておくべきことはありますか?
新濃彩花
やはり注意してほしいのは検査結果と現状のパフォーマンスがイコールではないよという点は抑えてほしいです。局所的に数値を見て決めつけないようにと意識する必要があると思います。また、既に雇用している方々へWAIS検査を促すというのはハードルが高いかもしれません。もし検査を促すとすれば就労支援機関含め連携しながら当事者にプレッシャーが掛からないような慎重な配慮が求められます。採用面接の段階で、WAIS検査結果の有無や意見について質問することで求職者に対して心の準備を促すことはできるのかもしれません。
見えない障がいは誤解を生みやすく結果的に互いの関係性が悪化してしまう場面も少なくありません。数値として可視化されることで感情的にならずに客観的に検討していくための心強いツールになるのかもしれません。
精神障がい・発達障がいのある当事者を支援するための体制作り
2027年までに障がい者雇用の法定雇用率は2.7%へと上昇する中で、精神障がい・発達障がいへと採用枠を広げようとする企業が増加しています。見えづらい障がいがあると勘違い、誤解から生まれるトラブルが非常に多いですが、体制作りのポイントはありますか?
新濃彩花
重要なのは2名体制で支援することです。上司、同僚や障がい者雇用で働く当事者でも良いと思いますが、障がい者雇用担当が1名だと潜在的、無意識的にある偏見や独断的判断で行動してしまった結果としてトラブルに発展するケースも少なくありません。言った、言ってないなどの誤解や勘違いなどすれ違いを失くす上でも2名体制であることが大切だと感じています。
これまでは身体障がい者を中心に雇用してきた企業が多いと思いますが、今後は精神障がい・発達障がいへ雇用領域を広げていかなければいけないと考えている企業が増加傾向にあります。従来通りの新卒・中途採用との兼務や1名体制のままで採用枠を広げていくだけの体制作りだとトラブルに繋がる可能性があるように感じました。
新濃彩花
法定雇用率が上がる中で障がい種別を絞ったままで継続することも限界が近いと思いますし、いかに多様な障がいに対する受け皿を整備するかは全ての担当者が頭を悩ませていると思います。まずは2名体制の仕組みを作ることから始めると検討できる幅も広がっていくかもしれません。
セミナー参加者のアンケート結果
■セミナー満足度
非常に良かった:50.0%
良かった:50.0%
- メールを見て「WAIS検査」という言葉を初めて聞いたので,何だろうと思って参加しました。
- どのように採用していけるのか,採用後はどういうことに注意が必要かを勉強した上で,考えていきたいと思います。
- WAIS検査について,万能ではないが,その職員をサポートしたり,課題を解決していくときには助けとなることがわかりました。
- 障がいのある方の支援をしている立場ですが、改めて知れてよかったです。
- 特に当事者の方がどう感じているのか、支援側の人がどの様に意識をして接しているのかを両方聞けるのはすごく勉強になりました。
- 今後の自分の支援にも活かしていきたいと思います。
- 障害があっても支援者側で活躍できるということを体現してくれていて、良いなと感じました。
- 実際の検査の内容はなかなか知ることができないので、参考になりました。
- 自分が同じことをしないために、今自分が何ができるのか?を考える機会になった。
- 今までは身体障がい者を中心にメンバーと一緒に動いていましたが、アドバイスも受けながらより良いチームにしていきたいと思った。
障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)についての詳細はこちらをご覧ください。