採用担当者、受け入れ部署の上長、役員など障がい者雇用に携わる、関心がある方々が集う障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)が2023年9月21日セミナーを開催。大手人材会社を経て障害者雇用担当の経験を持つ秋山さん、工藤さんをゲストに魅力的な求人票の書き方について議論しました。
はじめに
障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」
2022年1月に障がい者雇用特化型の求人サイト「パラちゃんねる」をオープンして1年以上が経ち、これまで3000社を超える採用担当者と対話を繰り返してきました。
- 障がい者雇用のはじめ方がわからない
- 業務の切り出し、受け入れ部署の開拓ができない
- 相談する場所がない
- 新卒採用と兼業で手が回らない
- トップが障がい者雇用にネガティブである etc
障がい者雇用担当者は、役員と現場の狭間で理想と現実のギャップに日々悪戦苦闘しています。教育課程での構造的分断がある日本においては「働く」を通じた共生社会の実現が求められ、旗振り役となる障がい者雇用担当の積極的な社内活動が必要不可欠です。
そこで、私たちは、障がい者雇用担当を後押しするチームとしてコミュニティを形成し、
職場での雇用促進に向けて全面的にサポートすることとしました。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)には、既に30社を超える障がい者雇用担当者が集い、互いの悩みや課題を共有し、障がい者雇用のあるべき姿を模索し続けています。
今回は、FLAT(ふらっと)主催セミナー「効果的な求人票の書き方」についての活動レポートをお届けします。
ファシリテーター
NPO法人Collable(コラブル)の代表理事 山田小百合さん。障がいのある人たちや多様な人との共創の場をつくるCollable(コラブル)は、ワークショップを通じて「インクルーシブデザイン」の普及や、障がいの有無をこえた場作り、それらの啓発活動を行っています。オブザーバー
パラちゃんねるのオーナー 中塚翔大。2020年4月に多様性を推進するプロジェクト「パラちゃんねる」を立ち上げ、ラジオ・コラムのメディア活動と障がい者雇用特化型の求人サイトを運営し、「誰もが特性を活かせる、多様な選択肢のある社会」を目指して活動しています。ゲスト
工藤舞子さん。新卒で株式会社マイナビに入社して3年間マイナビバイトの広告営業を経験後、Indeed Japan株式会社に転職し、スポンサー広告営業に従事。その後、株式会社ファーストリテイリングに転職して人事部で3年間HRBPを経験後、現在はフリーランスとして面接代行や採用オペレーションのアドバイザリーを行う。ゲスト
秋山典男さん。新卒でソフトバンク株式会社株式会社に入社して5年間法人営業を経験後、Indeed Japan株式会社に転職し、中小企業を対象に採用支援を行う。現在はコルクレド株式会社を創業し、中小企業の採用支援や採用代行を行っている。
当日は16社の採用担当者や福祉サービス事業者にご参加いただき、障がい者雇用における求人票作成のポイントを検討しました。
よくあるお悩み①応募が来ない
これまで数多くの求人票を見てきた中で、応募が来る求人票と来ない求人票にはどのような違いがあると思いますか?
工藤舞子
他社の求人票と比較したときに好条件であれば応募に繋がりますが、多くの場合、そうではありません。条件が劣る、または差がないケースで応募がない場合、求人票がただ条件の羅列になっていることが多い気がします。特に差別化にならない条件が並んでいる求人票の応募率を高めることはなかなか難しいと感じます。
秋山典男
応募が来ない場合、求人情報がそもそも薄かったり、写真など文字以外でアピールする要素が不十分だったりということが多いです。応募がある企業は求人票の中身だけでなく、写真など素材にもこだわっており、求職者目線で見やすく、採用への意欲が伝わるものであることが大切ですね。
中塚翔大
まず第一段階として求人媒体の選定の差がありますが、現在は媒体の種類も飽和化しているため、求人票の差別化がない限り他の求人の中で埋もれてしまいます。工藤さんは障がい者雇用の採用担当もしていたと思いますが、差別化のために何を工夫していましたか?
工藤舞子
基本的に人材紹介エージェントを利用していましたが、求人票には前任者の業務内容など常に事例を添えるなど求職者が働くイメージを持ってもらえる内容にすることを心掛けていました。そのほかでは働く中で配慮出来る事項や事前の見学ツアーなど応募ハードルが下がるような事例は明記していました。「一般事務」「特性に合わせた部署」など良くある単語だけだと差別化に繋がりづらいと思っています。
中塚翔大
秋山さんは心臓病の当事者としても求職者と接点をお持ちですが、障がい当事者は求人票のどの部分を見ているのでしょうか?
秋山典男
やはり自分の特性や疾患など考慮して欲しいポイントが明記されているかは気になるポイントです。例えば、心臓病の場合、人によっては階段を三階以上上がるのはつらいなど個別の状況があるのが現実です。その他、視覚障がいの方ならアナウンスがないエレベーターだと一人で利用しづらいなども聞いたことがあります。求人票にすべてを明記することはできないと思うので採用ターゲットを明確にして詳細を明記することが大切だと思います。
応募に繋げるキーワードは「差別化」と「求職者目線」になりそうですね。スロープ、エレベーター、トイレなど身体障がいの方に向けたバリアフリー情報は一般化されつつありますが、その他の障がいに向けた情報提供や働くイメージを深めるための情報提供を検討していくことが大切かもしれません。
よくあるお悩み②条件に合わない応募が多い
障がい者雇用においては働く環境や条件などマッチングする項目が多くなるため必然的に内定率は低くなる傾向があります。どのような工夫があれば効率的なマッチングが可能になるのでしょうか?
工藤舞子
まずは応募者が獲得できている時点で合格だと思います。そのうえで、さらに人事としての生産性を上げていくなら、ハード面だけでなくソフト面を含めた採用条件を具体的に設定していくことが求められます。例えば「大卒以上」という条件があったとすれば、なぜ大卒以上でなければいけないのかというように一段掘り下げたうえで求める能力を求人票に理由と共に明記することが大切です。
秋山典男
採用条件に当てはまる人を対象とした文章構成は大切だと思います。求人票を読んで応募する人、全然読まないでとりあえず応募する人など多種多様なので、より多くの人に目を通してもらうための文章構成や情報を置く場所の検討も重要です。
採用条件に合致しない人ばかり応募があるという場合もあると思いますが、その場合、検討すべきことは何がありますか?
工藤舞子
一般的な求人サイトだと求人一覧画面から求人詳細へ繋がると思いますが、一覧画面で採用ターゲットに合わせた魅力的な情報が打ち出せているかというのは大事なポイントかなと思っています。
中塚翔大
サムネイルの写真を何にするかは重要なテーマです。極端な話ですが、サムネイルの写真が車いすであれば応募者は自然と車いすユーザーに限定されていく可能性が高くなりますので、それぐらい視覚情報は大切ですね。
秋山典男
人事担当の方はスマホ画面のチェックをオススメします。一般的には約8割の求職者がスマホから閲覧しているため、スマホから求人一覧画面と求人票をチェックした時に適切な場所に適切な情報があるかどうかは大切です。
これまでのアドバイスをもとに求人票を修正したらPV数を管理して状況を見守りたいですね。もしそれでも応募がない場合は、求人媒体や求人情報の見直してみたり、ダイレクトリクルーティング(スカウト)のような能動的な活動も検討していくことが大切かもしれません。
セミナー参加者とのQ&Aセッション
当日は、セミナー参加者からもたくさんの質問をいただきました。
Q.求人情報に何を載せたら良いかわからない。情報量が多すぎるのも懸念している。
工藤舞子
求人票は情報過多になりやすく、視覚的にも読みづらくなる傾向があります。表現方法を文字ではなく画像や動画にしていくのも一つの手段だと思います。また、人事にいると自社求人しか見ないため、客観的な視点がわからなくなることも少なくありません。定期的に社内や人材エージェントなどにも意見を求めてみることも大切かなと思っています。
秋山典男
前述した通りでターゲットを絞っていくのは一つの手段ですし、絞り切れない場合は競合他社などベンチマークする企業を参考にしていくのが効率的かもしれません。業務に追われる中で、一から考えるのも大変なので上手い事例を取捨選択して付け足していくと良いと思います。
中塚翔大
障がい者雇用の経験値が乏しい企業も多く、ターゲットの絞り方がわからなかったり、抽象的な条件や要望も多くてターゲットを絞りづらい状況にあるようにも感じます。もしも、すでに障がい者雇用で採用実績があるのであれば、社内で働く当事者に意見を聞いてみるのが近道だと考えています。
Q.年齢や障がい種別など採用条件が限定的で表現に困る場面がありますが、何か良い対策はありますか?
工藤舞子
業務内容やフォロー体制の兼ね合いで限定的な求人票になってしまうことも多いですが、まず応募がないと前に進めないので採用条件だけでなく期待することや求める能力などを盛り込みできるだけ淡白な求人票にならないように注意することが必要です。採用条件に合致しなくても社風に合致する人材であれば違う可能性を見出すことができるかもしれませんし、そもそも障がい者雇用は新卒や中途採用と比較すると母集団が潤沢に集まる領域でもないと思うので可能性を広げていく採用活動は心掛けていくべきだと思います。
秋山典男
文章表現で困る場合は、写真や動画が有効になります。あとは、「20代活躍中」のようにキーワードで表現することで採用ターゲットにアピールする方法もありますね。
中塚翔大
採用ターゲットが明確な場合、求人票に限定的な表現が増えることで採用ハードルが高い印象を与える可能性もあります。業務内容や就業時間など柔軟に対応できる範囲があれば、「相談可能」「〇〇歓迎」のように求職者にまずは気軽に連絡くださいと伝えていくような表現は積極的に用いることが大切だと思います。
障がい者雇用の採用活動は、求職者の働く条件と求人企業の採用条件とのマッチング項目が通常より多くなるため必然的に採用ハードルが高くなっていく傾向があります。また、ミスマッチによる早期離職を経験すれば受け入れ部署にネガティブな印象が定着し、採用活動が停滞する場合も少なくありません。
法定雇用率に対応するために積極的な採用はチャレンジしたくても、入社後のミスマッチがあると求職者も求人企業も共に疲弊してしまいます。まずは求人票に適した情報を盛り込みと共により一層求職者が応募しやすくなるような素材を社内と連携して検討していけると障害者雇用の社内浸透にも繋げていけるのかもしれません。
セミナー参加者のアンケート結果
■セミナー満足度
非常に良かった:37.50%
良かった:62.50%
- 具体的なお話が聞けたのでイメージが付きやすかった。
- 現在までハローワークだけで何とか採用は出来ていたのですが、最近は応募が減っている状態だったので、非常に参考になりました。
- 求人票における工夫の観点などを知ることができた。
- 聞けば聞くほど、結局はジョブをどう創出するかという根本の問題に立ち戻る気がした。
障がい者雇用担当と言っても知識・経験が最初からあるわけではなく、ノウハウや相談相手もいない中で悪戦苦闘しながら前に進んでいる現状があります。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)は、セミナーや交流会を中心とした場づくりをもとに情報を集約することで、障がい者雇用担当者のニーズに合わせた資料提供など社内における適切な雇用促進のサポートをしていきます。
障がい者雇用担当者交流会FLAT(ふらっと)についての詳細はこちらをご覧ください。