心理カウンセリングのススメ 7~超えてはイケない境界線!

山の頂上で旗を掲げる二人の人のイラスト。

『心理カウンセリングのススメ』のシリーズもこれで最後となります。最後にお伝えするのは“心理カウンセラーとの距離感”みたいな事をお伝えして、皆様が心理カウンセリングを受ける時に過ちを侵さず(笑)良好な心理カウンセリングを受けられるよう、いくつかの注意点をお伝えしたいと思います。

心理カウンセリングを受ける場合、その心理カウンセラーとクライエントとの間にある関係性を「カウンセリング関係」と言います。この「カウンセリング関係」を良好に保つことがクライエントにとって良い心理カウンセリングの終結(問題解決をして心理カウンセリングを終えること)を得られるかどうかにかかってくると言っても過言ではありません。

湖のほとりに座る年配の男性とその影。

大っ好き?!大っ嫌い?!『陽性転移』と『陰性転移』

『転移』と言ってもガンや腫瘍の話ではありません(笑)

心理カウンセラーというのはクライエントにとって、基本的に『心地の良い関係を提供してくれる人』です。クライエントが様々な悩みや、時にはあまり望ましくない感情を表現しても、心理カウンセラーはそれをキチンと受け止め、共感してくれる存在です。心理カウンセラー自身もよく使うのですが「一緒に考えてきましょう」「一緒にやってみましょう」などの声掛けをするということは、クライエントにとってみると『共に戦う同志』と捉えることができ、心理カウンセラーに対してポジティブな、肯定的な印象を持つようになります。

コレが『陽性転移』と呼ばれる現象です。

この陽性転移は、一見、望ましい感情と関係性の様に思われますが、実は注意が必要です。

例えば、心理カウンセリングによる介入開始早期に、陽性転移によりクライエントが心理カウンセラーに良い印象を持ってもらいたい、例えば「早く良くなって褒めてもらいたい」などの心理が働き、表面的に精神症状が治ったかのように見えてしまうこともあります(転移性治癒)。ですが、本質的に問題が解決しているわけではないため、そうした場合は、治療を終えてもすぐに問題が再燃してしまうことも多くあります。

また、心理カウンセラーへの肯定的感情が高まり、恋愛感情を抱いてしまうこともあります(恋愛性転移)。エスカレートすると、場合によってはクライエントの恋愛感情に歯止めが利かなくなってしまい、ストーキング行為のようにカウンセリング関係を越えようとする行動をしてしまうことがあります(行動化)。

一方『陰性転移』とはどのようなものか。

端的に言ってしまえば、『陽性転移』の逆ですので、クライエントが心理カウンセラーに対し、ネガティブな、否定的な感情を持つことです。

例えば、カウンセリングセッションを重ねるに伴い、クライエントが心理カウンセラーに対して「自分のことを大事にしてくれていない」「理解しようとしてくれていない」などといった不信感や怒り、憎しみの感情が湧いてきたりします。

こうした陰性転移による感情は、クライエントの過去の両親(またはそれに近しい人物)との関係のパターンや葛藤を反復していることが多く、クライエントが幼少の頃に両親に抱いていた感情であったり(「大事にされていない」「理解してくれない」など)、欲求が十分に満たされていなかったりした可能性があると考えられます。

この陰性転移は、エスカレートするとクライエントから一方的に心理カウンセリングを終了してしまったり嫌がらせの様な行動をとってしまったりして、それまでの心理カウンセリングが無に帰すこともありますが、実は心理カウンセラーはこの陰性転移をとても大切にします。

というのも、どの様な状況や言葉かけなどで陰性転移が起こっているかと言う分析をすることで、クライエントの問題の本質が見えてくるからです。

ギフトボックスを持ち、指さす女性のイラスト。

あってはならない『二重関係』

本来、心理カウンセラーとクライエントは、心理カウンセリングのセッションの間だけの関係性に留めなければなりません。少し前の話題になりますが、「カウンセラーを名乗るユーチューバーがクライエントである女性と交際している」と言う話題がネット上で盛んに取り上げられ、当事者たちがかなりバッシングにあっていました。

ボクはこの事の真相を知らないのであまり批判的な意見をお伝えすることは控えたいと思いますが、もしこのユーチューバーとクライエントが『心理カウンセリングを終結してから交際し始めた』と言うのであればまだ、許されることかもしれません。しかしもし、そうでなければ、この二人の関係性というのはあってはならないモノと言わざるを得ません。

つまり先に書きました「カウンセリング関係」とは異なる関係性を持って心理カウンセリングを続けるということは、両者にとって良くない結末を迎える可能性が高いのです。

簡単にお伝えしますと、例えばクライエントが心理カウンセラーに陽性転移をして行動化を起こし、「日頃のお礼」と言う気持ちから金品を贈ったとします。もし未熟な心理カウンセラーがそれを受け取ってしまった場合、この二人の間の心理カウンセリングにどんな影響がでるでしょうか?

クライエントは「贈り物してあげたのに」と言う気持ちが、心理カウンセラーには「贈り物を受け取ったから」と言う『忖度』がカウンセリングセッション中に表出されてくる可能性が高いのです。「意識しないから大丈夫」と言う話ではなく、その『忖度』が無意識に行われることが多く、それが原因でカウンセリング関係が破綻し、望ましくない終結を迎える可能性が高いのです。

今回は、心理カウンセリングを受けようと思われている方々に対して、少し気を付けて頂きたいと思っていることを『カウンセリング関係』をキーワードにお伝えしました。本来ならば、これらの事は心理カウンセラーが気付きそして注意を払うべきことです。しかしボクがお伝えしたいのは、クライエントであるみなさんが注意できることもある、と言うことです。それはどういうことかと言うと、心理カウンセラーと過ごす時間の価値を“快・不快”の感覚だけで判断し行動しないようにしていただきたい、と言うことです。実はその“快・不快”のその先には『問題の本質』があり、それに対して取り組まなければならないからです。

山の頂上で旗を掲げる二人の人のイラスト。

さて、今回で『心理カウンセリングのススメ』は終わりです。

このシリーズを通してボクは、ある意味心理カウンセラーの手の内を見せてきました(笑)。それは何故かと言うと『心理カウンセリング』を身近なものとして感じていただきたかったからです。もう『心理カウンセリングは精神疾患患者のもの、特別な病気の人のためだけのもの〛と言う時代は終わりました。

何かに迷い困った時に、一つの解決手段として『心理カウンセリング』を活用して頂ければ、と思います。

アピールしたい職歴・スキルだけで応募できる!
ABOUT ME
1975年岐阜県生まれ。長く理学療法士として医療機関に勤務。働きながら社会福祉士免許取得後、大学院修士課程を修了。リハビリテーション療法学修士。その後、産業カウンセラーの資格を取得。現在はフリーの心理カウンセラーとして活動中。セクシャルマイノリティ(ゲイ)であり身体障害者(免疫機能障害)であり精神障害者(双極性障害)である。