前回のコラムでは「心理カウンセリングの本質は、クライエントが自分自身のことを振り返り、自己理解を深め、問題解決に主体的に取り組み、自己成長へと向かう内的変化を促すこと」だとお伝えしました。その事を踏まえ今回は、効果的に心理カウンセリングを活用するため、クライエントとしてどの様な心構えで心理カウンセリングを受けると良いのか、そのコツをお伝えしたいと思います。
心理カウンセリングを受ける時、ただ何となくその時間を過ごすし癒やしの時間として受け取るのも良いのですが、もう一歩踏み込んで「自己成長へと向かう内的変化を促すための心理カウンセリングを受ける時のコツ」みたいなモノを知っておくと、より効果的な心理カウンセリングを受けることができるとボクは思っています。ある意味、心理カウンセラーとしての手の内をバラしてしまうことにもなるのですが(笑)でも是非知っておいて頂きたいと思います。
①最初は主観的に自分の感情に正直に
クライエントが心理カウンセラーの元を訪れた時、心理カウンセラーは何を知りたいかと言うと「どのような状況で」「それをどの様に受け止めていて」「どのような感情を抱いて」「何に困っているのか」を知りたいと思ってお話を聞きます。
例えば…
「仕事上の人間関係が」「上手く行っていなくて」「それがツラくて」「会社に行けない」とか
「パートナーと破局した事を」「とても悔やんでいて」「悲しくて」「夜も眠れない」とか
「仕事を休職していて」「上司に申し訳なく思って」「苦しくて」「何もやる気がおきない」とか
まあ、こんなに理路整然と説明できる人はいないと思いますが(笑)
一度でも心理カウンセリングを受けたことがある方は分かると思うのですが、話しをしているうちに「これも関係しているかも」「あれも考えられるのかも」と、話しが飛んだりしてとっちらかってしまうことが往々にしてありますが、それは問題ではありません。
心理カウンセラーは、クライエントから伝えられた事実や感情を、傾聴し共感しながら客観的に交通整理をしていきます。
お話を聞いていると、クライエントは「どのような状況で」「何に困っているのか」はキチンと説明できたり、最初から言葉にすることが出来たりするのですが「それをどの様に受け止めていて」「どのような感情を抱いて」と言う部分が欠落していることがよくあります。
「欠落」と言っても「何も考えていない」「何も感じていない」のではなく、クライエント自身はそこに注目していないと言う意味です。そのため心理カウンセラーは「その時どんな感じがしましたか?」とか「どんな感情になりましたか?」と質問を投げかけることもありますので、よく思い出して言葉にしていただけると良いと思います。
実はココまでの過程で、心理カウンセリングの時間の7~8割くらいを占めると思います(笑)この様な対話をしているだけでも、クライエント自身に気付きが得られることがあります。
ここまでの過程というのは、クライエントの主観の部分にフォーカスしたお話だったのはご理解いただけましたでしょうか?
②深まるにつれ客観的な視点へと
初回の心理カウンセリングではあまりないことかもしれませんが、クライエントが問題だと思っていることに対して、心理カウンセラーは「どの様に受け止めて」の部分と「どのような感情を抱いて」に少しずつ焦点を当てていきます。
例えば…
「仕事上の人間関係が」「上手くいっていなくて」「それがツラくて」「会社に行けない」
を例にとってみると
「上手くいっていなくて」と言う部分を、どういう時に「上手くいっていない」と受け止めるのか、そのシチュエーションやエピソードを探っていきます。それをクライエントが思い出す時というのは「上手くいっていないと受け止めているシチュエーション」を、自然と客観的に思い出していることが多いと思います。それは時間の経過とともに、自然に湧き上がってきた「感情」を一歩引いた立場で思い出す事ができるからです。
すると、クライエントにもよりますが、それを思い出し言葉にしたりジェスチャーを交えたりして表現することで「何かの気付き」がある場合があります。「あの時、あんなふうに感じたけど少し違うかも」「あれはもしかして別の意味があったのかも」と。
もちろん、クライエント自身が気付いていなくても心理カウンセラーが気付いており、クライエントがそこに気付きが得られるよう“仕掛け”をする場合があります。
さりげなく(笑)
その時に、クライエントはムリに勘ぐったり話し続けたりする必要はありません。もちろん沈黙があっても全く問題ありません。心理カウンセラーは根気よく待ちます。そして心理カウンセラー自身も「この気付きは本当に大切な気付きだろうか」と自問自答しながら、またクライエントの様子を観察しながらクライエントの応答を待ちます。
「上手くいっていなくて」をより詳しくより鮮明に思い出しながらその後に続く「それがツラくて」へと、今度は思考を切り替えていきます。
「上手くいっていない」シチュエーションやエピソードを思い起こした時に、「じゃあどうしてそれが“ツラい”と言う気持ちに結びつくか」と言うところへ焦点を当てていきます。「それがツラくて」が解決できれば「仕事にいけなくて」の解決への糸口が見つかっていくことでしょう。
これらの過程というのは、「感情」や「気持ち」などの主観の部分から徐々に離れていき、「なぜ」「どうして」と言う理由をさぐるために、嫌でも自分自身を客観視するようになっていきます。
人は感情の波が大きければ大きいほど、その時の事実やシチュエーションを客観的に受け止めることが出来ず、その感情に飲み込まれ様々な体の不調や行動の障害の原因へと発展していきます。しかし、その感情の原因となったシチュエーションやエピソードを紐解いていくことで、行動の仕方が変わったり、出来事の受け止め方が変わったりして、沸き起こる感情そのものが変わり、感情が変わることで体の不調や行動の障害が改善されていくことへと繋がっていきます。
よく「俯瞰(ふかん)で見る」と言う言葉を使いますが、心理カウンセリングを進めていくうちに、ご自身の事を俯瞰で見られるようになります。また、起こった出来事に対して多面的に受け止めたり理解したりしようとするようになります。そうなると、自分で自分の事をよく理解できるようになり、考え方のクセや物事の受け止め方のクセなどに気付き、今、抱えている問題だけでなく、これから起こるであろう出来事に対しても、それまでとは違った考え方や受け止め方ができるようになります。そうすると沸き起こる感情にも変化が起こってきます。
と、簡単に書きましたが、これが難しい(笑)。そもそも、心理カウンセリングに懐疑的に捉えておられる方にとっては、こんなプロセス自体が受け入れられないと思います。それに時には、自分自身の「負の部分」「闇の部分」「見せたくない部分」をさらけ出す必要がありますので、そこそこ心のエネルギーを使います。
そして同じ様に心理カウンセラーも心のエネルギーを使います。
しかし、心のエネルギーを使ったからこそ得られるものも大きいと思いますので、体験したことのない方はぜひ、一度、体験してみていただきたいと思っていますし、取り組み始めたのであれば、ある程度の成果が見えるまでは、根気よく続けることをおすすめします。