前回のコラムでは、心理カウンセリングというのは「対話」と言う方法を使って「クライエントが主体的に問題解決に取り組むサポートをする」事だとお伝えしました。
今回は、なぜ日本では心理カウンセリングを否定的な印象を持っている人が多いのか、その理由についてボクなりの私見をお伝えしたいと思います。
日本で「心理カウンセリング」が理解されない理由
日本において、心理カウンセリングや心理カウンセラーの理解は、まだまだだなぁと思っています。その理由を以下の3つの事実に基づいてご説明します。
1.日本文化での「相談する」ことに対する否定的な印象
元来、日本において「我慢」「耐え忍ぶ」「辛抱する」「自ら切り開く」事が『美徳である』と言う文化が根づいていると思います。その裏側にはおそらく『本音と建前』文化があり、他人に弱みを見せないとかカッコつけるとか、その様な事実が日常的に行われていますよね。
〝武士は食わねど高楊枝〟
もう、この慣用句が物語っていると思います。
ちなみにこの意味ですが『武士が貧しくて食事ができなくても、あたかも食べたかのように楊枝を使って見せる、という意味のことわざで、生活に窮しても気位は高くもち、恥ずべきことをしてはならないというたとえ』なのですが、この説明文の中にも『我慢出来ないこと≒恥ずべきこと』の様に言っていますよね。
日本において「ツラい」「苦しい」「救けて欲しい」と言いづらい文化が根底にあるため『心理カウンセリング』と言う支援の方法そのものが受け入れがたいものがあると思います。
2.秘密が暴かれることへの恐怖心
「暴かれることへの恐怖心」には2つの意味があります。
①悩みを打ち明けた相手が本当に秘密にしてくれるかと言う恐怖心・猜疑心
②自分の本心(秘密)を暴かれてしまうかもしれないと言う恐怖心
①についてですが〝人の口に戸は立てられぬ〟と言う慣用句がありますよね。この意味は『他人が言うことを、止めるわけにはゆかぬことをいい、人のうわさや批判することを、防ぐ方法はないこと』と言う意味です。「自分の秘密や人の秘密を打ち明けるとろくなことにならないよ」と言っているようなものです。
②については、本当は知られたくない自分や、自分の闇の部分を人にさらけ出すことに対する恐怖心です。まぁこれは日本人に限ったことではないと思いますが、見ず知らずの人に腹の中を探られるというのは、気持ちの良いものではありません。それに人間誰しも、一つや二つ、秘密にしておきたいことは持っていると思うんです。それを暴かれてしまうというのは心地の良いものではないですよね。
3.心理カウンセリングを行う職種が多過ぎる!
現在の日本において『心理カウンセリング』を行う職種には、非常に多くのものがあります。そして一般の方にはその区別がつかない事もあるかと思います。以下に一般的で多くの人が一度は耳にしたことがあるであろう資格について挙げます。
①公認心理師(以下、厚生労働省ホームページより抜粋)国家資格
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
公認心理師とは(中略)保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。
(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
公認心理師とは、2017年9月に施行された「公認心理師法」に基づく、日本初の心理職の国家資格です。実はこの法律ができるまで、日本には心理職の国家資格はなかったのです!
②臨床心理士(以下、日本臨床心理士資格認定協会ホームページより抜粋)公的資格
http://fjcbcp.or.jp/rinshou/about-2/
臨床心理士は、心の問題に取り組む“心理専門職”の証となる資格です。(中略)臨床心理学にもとづく知識や技術を用いて、人間の“こころ”の問題にアプローチする“心の専門家”です。(中略)
(1)種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること。
(2)一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。
(3)地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。
(4)自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること。
臨床心理士は公認心理師の資格ができるまで、「心の専門家」として様々な現場で活躍してきた心理職です。ちなみに臨床心理士の資格認定がスタートしたのは昭和63(1988)年です。
③認定心理士(以下、放送大学ホームページより抜粋)民間資格
https://www.ouj.ac.jp/reasons-to-choose-us/qualification/psychologist/
認定心理士資格は、「公益社団法人日本心理学会」が認定する心理学の基礎資格で、4年制大学で心理学の標準的な基礎知識と基礎技術を修得していることを認定するものです。
4年制大学で一定数の心理学の単位を修得したうえで申請すれば資格を取得できます。職業に直結する資格ではありませんが、人とかかわる仕事やボランティア活動などで心理学の基礎知識・技能を生かしたい人や、将来、心理学の専門職を目指す人にはぜひ取得していただきたい資格です。
④産業カウンセラー(以下、一般社団法人日本産業カウンセラー協会中部支部ホームページより抜粋)民間資格
https://www.counselor.or.jp/portals/0/e-learning/?utm_source=honbu&utm_medium=banner&utm_campaign=2023
働く人たちや組織が抱える問題を自ら解決できるよう、心理的な手法を用いて支援するカウンセラーです。
その活動は多岐にわたり、産業、労働現場に通じたプロフェッショナルな支援者として、国や自治体、企業等から専門的な役割を期待されています。
上記に挙げたものは、大学や大学院、高等教育を必要とする資格の一部ですが、これ以外にも民間資格や学会認定資格など沢山の資格があります。以下はWikipediaに記載されていたものを表にしました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%B3%87%E6%A0%BC%E4%B8%80%E8%A6%A7
ご覧の通り、「〇〇セラピスト」「〇〇カウンセラー」「〇〇心理士」などなんと多いこと!!これだけ資格があると、何を信じて良いのか分からなくなるのもうなずけますよね。もちろん、それぞれの資格を認定している学会、民間法人などは、一定の基準を設けてそれに対して資格を認定しているわけですが、個人的にはなんとなくお金の匂いのするものも…無きにしもあらず、かと思っています。
ボクは、自分の職種をお伝えする時に必ず「産業カウンセラーの」とお伝えするようにしていて、それは数多(あまた)ある心理職の中でも〝「産業カウンセラー」と言う資格を取るために勉強し試験に合格をし自己研鑽している者です〟という事を知っていただきたいと思うのと同時に、この資格にプライドを持って仕事に臨んでいることの意思表示としてお伝えしています。
まずは助けを求めてみることが大切
今回は、どうして日本で心理カウンセリングが浸透しないのか、その理由を3つの観点からお伝えしました。まだ他にも理由はあるかとは思いますが、国民性であったり資格の問題であったりと多岐にわたります。しかし、まずはご自身が躊躇せず助けを求めること、そして信頼の置ける相手に打ち明ける、その二つをクリアーできればあなたにとって心理カウンセリングはとても有用な援助手段となるはずです。