「休むこと」に罪悪感を抱いていた“複雑性PTSD当事者”が休み方を知るまで

ピンクのマグカップとハート形のクッキー

そんなに頑張らなくてもいい。少し休んでもいい。そういった優しい言葉をかけられても、休むという選択ができない人は意外と多いはず。実際、私もそのひとりで、そもそも休み方が分からず、自分を労わることが苦手だった。

「休みたい」と思うとこみ上げてくる罪悪感がしんどい

窓辺に座って外を見つめる女性

休むことが怖くなったのは、いつの頃からだったのか。そんな問いに自分自身が首をかしげてしまうほど、私はずいぶん前から休めない人間になっていた。

仕事は、成果が目に見えやすい。クライアントに喜んでもらえることも嬉しい。だから、依頼される仕事は一切断らず、スケジュールを満たした。仕事依存な心身になっている。そんなことは分かっていたが、そういう生き方でしか、心の穴が埋まらなかった。

隙間時間ができると、不安になった。フリーランスは仕事が来なければ成り立たないから未来が怖くなったし、休もうと思うとこみ上げてくる罪悪感に勝てなかった。

休むことは悪いことじゃない。休めるうちに心身を労わろう。自分に、そんな言葉をかけてみても納得できず、今しなくてもいい家事を空いた時間に行っては、体や脳を動かしていた。

そういう日常を過ごしていると、完璧主義な気質が強まっていき、同居している彼の行動が自分の求めているレベルに達していないと苛立つようになった。トイレットペーパーの芯を捨て忘れている。キッチンのタオルが濡れているのに、なぜ取り替えないのか。私ばかり名もなき家事をしているみたい。不平等だと思った。

でも、怒りを伝えることで相手を傷つけたり、自分が求めるレベルをパートナーに押し付けたりするのは何か違う。だから、この感情は自分の胸にしまって置こう。彼は悪気があるわけではなく、つい忘れてしまったり気づかなかったりするだけ。私が家事を完璧にやればいいだけだ。そう思っていた。

しかし、その一方で、彼はわざと私に面倒な名もなき家事を押し付けているのでは…という真逆な考えが浮かぶこともあり、苦しかった。大切な人を憎み始めていることが、何より辛かった。

「休めない」の裏には頑張り続けて生き延びてきたあの頃の私がいた

顔に手を当てている小さな女の子

もう頑張れない。休みたい。でも、休めない。休み方が分からない。そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、私はカウンセリングに通い、複雑性PTSDの治療としてインナーチャイルドを癒すワークに取り組んでいた。すると、しばらくして、自分の気持ちに変化が生じる出来事が起きた。

ある夜、ふと「明日は夕食を作るのをやめよう」と思った。自分の性格上、翌日になると、きっと無理をして作ってしまうだろうと思った私は「最近、家事がしんどいから今日はご飯作るの休みたい」というLINEを彼とのトークルームに書き、明日、送れるように準備した。

しかし、それでも気持ちがモヤモヤし、寝室からトイレへ移動。真っ暗な空間の中で声を上げて泣いた。名もなき家事に気づいてしまう自分の完璧さがしんどい。休日でも、やらなければいけない家事が頭から離れず、早起きしてしまうのが辛い。せめて、明日だけは休みたい。

そう思いながら泣いていると、「やっぱり努力しないと愛されないって思ってるね」という声が突然、頭の中に響いた。同時に、自分を監視している自分自身の姿も浮かんだ。ああ、だから、私は休めないんだと思った。

なんで、こうなった?怖いよね。休みたいって言うのも、頑張らないことを頑張るのも。慣れていないから怖いよね。でも、大丈夫。大丈夫だから。

気付くと、私はそんな言葉を口にしながら、自分の頭を撫でていた。なぜだか、大人の自分の手で、小学生くらいの小さな女の子の頭を撫でている感じがした。

なぜ、こんな気持ちになるのだろう。そう考えて、気づいた。ああ、こんなにも私は頑張らせていたのは、小さな頃の私だったんだ、と。当時の私は持病を持って生まれてきた負い目があり、誰かのためになることを見つけて頑張ることが、愛される唯一の方法だと思っていたのだ。

頑張り屋のインナーチャイルドを見つけたことで休めるように!

ピンクのマグカップとハート形のクッキー

ずっと頑張ってくれていたのは、あなただったんだね。心にそんな感情がこみ上げてきた時、溢れたのは、たくさんの「ありがとう」だった。

頑張ってくれて、ありがとう。もう大丈夫だよ。あの頃の私に、そう声をかけて泣きながら自分の頭を撫で続けると、涙がピタっと止まった。荒波のようだった心も穏やかになった。

あの子に「明日は絶対休もう」と伝えたら、「うん」って言ってくれたから、この約束は必ず守る。そう決意し、翌日、彼に作成済みのLINEを送信。帰宅した彼は「大丈夫?」と言ってくれ、私が感じている苦しさを分かろうとしてくれた。

大人げもなく、私は大泣きしながら休みたいけれど休めない辛さを吐露。彼は「休んでもいい」と言ってくれる優しい人だと知っているのに、自分の気持ちを伝えるのが怖くてたまらなかった。

話し合いの結果、家電製品を導入して私が担っている家事の負担を減らすことになった。彼は私が気になってしまう名もない家事も、できる限り気を付けてくれると言ってくれた。自分の気持ちを伝えられたこと、理解に苦しむであろう複雑な葛藤を分かろうとしてくれたことが私はとても嬉しかった。

この経験から、私は休むことへの罪悪感が少し和らいだ。ロボットのように完璧に生きなくてもいいのだと思えるようになった。そして、カウンセリング治療を始めてから9ヶ月経った今では、疲弊して日常が苦しいものにならないよう、家事は最低限でいいと思えるまでになった。

そうした思考が生まれると、完璧主義な自分は影を潜めた。彼が何かをやりっぱなしにしていても、「あれは私の問題じゃない。彼が片付ける問題だな」と苛立つことなく見て見ぬフリができるようになった。時には、「また、忘れてる」と笑えることもある。

人間はロボットのように完璧でないからこそ、尊いのだと気づけたことも、自他の至らないところを受け止められるようになった理由のひとつだ。

私と同じ複雑性PTSDの方はもちろん、そうではない方の中にも休むことが苦手な人はいることだろう。そうした方はまず、頑張り屋の自分がいることに気づき、たくさん褒めてあげてほしい。自分にしかできないその癒しは、あなたが楽になる道へと繋がっていくはずだ。

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ABOUT ME
猫の下僕のフリーライター。愛玩動物飼養管理士などの資格を活かしながら大手出版社が運営するウェブメディアにて猫に関する記事を執筆。共著作は『バズにゃん』。書籍レビューや生きづらさに関する記事も執筆しており、自身も生きづらさを感じてきたからこそ、知人と「合同会社Break Room」を設立。生きづらさを抱える人の支援を行っている。