障害別受け入れマニュアル『発達障害編』~障害者雇用担当者へ向けて精神疾患の精神保健福祉士が語る

「障害者雇用受け入れマニュアル 発達障害編」の表紙画像。

障害者雇用率は年々上昇し、多くの企業にとって障害者雇用が身近なミッションとなっています。

採用担当の方にとっては、面接で聞くべきこと、受け入れる際に周辺の従業員にどのように周知すべきか、トラブルがあった際は誰に頼れば良いのか……など多くの疑問と不安があると思います。

そのような疑問に対して、障害者雇用のコンサルタントが書く記事はたくさんありますが、障害を持つ当事者からの視点での記事はあまり見かけません。

そこで、精神保健福祉士であり、精神疾患を有し障害者雇用で働く当事者である私がその視点で記事を書きたいと思います。

この記事はシリーズとして連載予定です。今回は『発達障害』に特化した内容となります。医学的な視点というよりは、障害者雇用、つまり会社においてという部分を前提に執筆してゆきます。

障害者雇用における『発達障害』とは

知名度が高いわりに具体的な症状について理解している方は少ないでしょう。それもそのはずで、発達障害には「自閉症スペクトラム(ASD)」と「注意欠如多動症(ADHD)」と「限局性学習障害(LD)」の3種類が存在し、またそれらが複合するケースも多々あります。そして性別や育成環境などによってその症状としての現れ方に大きな差異があります。

つまり、画一的な対応はナンセンスであると同時に、面接や事前の顔合わせでの密なコミュニケーションを取ることが職場適応において大切となります。

面接で聞くべきこと

配慮事項、通院頻度、主な症状など聞きたいことはたくさんあると思います。しかし面接という場所は求職者、雇用者双方にとって化かし合いの場であることは否めませんし、ハラスメント予防の観点からも踏み込んだ質問をすることはリスクと言えます。よって、まずは「話しやすい雰囲気」を作ることが何より大切です。

その上で発達障害者に対して特に確認すべきことは3つあります。

①自分の障害特性を理解しているか

発達障害は説明が難しい障害であるだけに本人もあまり理解していないケースがあります。それだと症状と上手く付き合っていくことも難しくなりがちです。求職者自身が障害特性を理解していることは発達障害者の職場適応において大切な要素です。

②どのような配慮があれば安定した出勤がしやすいか

使用者側から見た障害者雇用の最初の目的は法定雇用率を満たすことです。そのためには週30時間以上の安定した出勤ができる労働者を雇いたいことだと思います。安定した出勤のために具体的にどのような配慮が必要か理解していて、それを主張できることは重要な能力です。

③体調を崩してしまった時の対応方法を持っているか

どんなに自身の障害を理解して上手く付き合っていたとしても、ひょんなことから体調を崩してしまうことはあります。そんな時にできるだけ早く自分自身、そしてサポーターの力を借りて立ち直る術を持っているかが大切になります。この時に通院先や支援機関(就労移行支援施設など)の情報も得ることができると尚よしです。

屋外でタブレットを使って話し合っている二人のビジネスマン。

周囲のスタッフへの周知方法

いざ採用となり発達障害者を部署に受け入れる際、周囲のスタッフへの周知に関してです。

先述いたしましたように発達障害には十人十色の特性があります。そして入社後に本人も知らなかった特性が表出してくる可能性もあります。そこで、周囲のスタッフへの周知に関しては杓子定規に伝えるというより、絶対に配慮が必要だと確定している事項を除いてはフレキシブルに都度コミュニケーションを取りながらというスタイルになるでしょう。

コミュニケーションを密にするためのコツとしては「相談先を決めておく」という手段がおすすめです。「誰にでも遠慮なく相談してくださいね」という状況では逆に迷いや遠慮が発生してしまいます。だから「悩みや困りごとがあった時は誰に相談してもいいけど、迷ったときはAさんかBさんに相談してくださいね」とある程度絞っておくことがコツです。

最後に そして採用試験について

今回は企業の人事担当者様に向けての障害者雇用の受け入れマニュアルとしての記事を発達障害に特化して書きました。当事者目線のこの記事が少しでも障害者の社会進出、そして貴社の社会貢献活動の力になることを祈っております。

そして最後に少しだけ時間をください。障害者雇用の採用フローにおいても「SPI」や「玉手箱」などの「適性検査」を実施する企業が増えています。これは国語や数学などの基礎学力、そして人格やストレス耐性などの性格を計ることを目的としている検査です。

適性検査は能力や性格に凹凸の無い人材を見極めるには適しているでしょう。しかし、これは多様な人材が活躍できる社会を目指すために行う障害者雇用において必要でしょうか?

例えば世界的俳優のトム・クルーズは発達障害のひとつである「限極性学習障害(LD)」です。彼は台本を読めません。文字を書くことができません。適性検査に通ることは難しいでしょう。しかし類稀なる才能を持っています。世界的経営者イーロン・マスクは発達障害のひとつである「自閉症スペクトラム(ASD)」であることを自ら明かしています。確かに人物的に個性が強く、適性検査の性格検査をすれば採用すべきでない人材だと評価されるかもしれません。

もちろんわが国は労働者を解雇しにくい代わりに、採用の自由は強い権利として幅広く認められております。どんな理由であったとしてもその決定は雇用者の自由です。

しかしどうか障害者雇用の理念を思い出していただきたいです。適性検査の実施があくまで形式的だったとしても、それは求職者には分かりようもないことです。

この記事を読んでくださる採用担当者様は障害者雇用について熱心な方なのだと思います。だから少しだけ「ひとつの声」として頭の片隅に置いておいていただきたいなと思い、こんなことを最後に書かせていただきました。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。次回は『うつ病』に特化した記事の執筆予定です。そちらもご覧いただけると幸いです。

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ABOUT ME
トゥレット症候群を持ち、一般企業の障害者雇用枠にて労働しております。トゥレット症候群のこと、発達障害のこと、精神疾患のことなどを多くの人に知って欲しくて自分にできることを探し中。精神保健福祉士、保育士、ファイナンシャルプランナーでもあります。