巷には「ADHDはクリエイティブ系の職種が向いている」という言説があります。思考の多動性や過集中といった発達障害の特性からそう思われるのかもしれません。今回は、発達障害当事者でデザイナーとして働く私の紆余曲折についてお話をしていきます。
合わない仕事
こんにちは、とくらです。
現在私は、正社員のデザイナーとして在宅勤務をしています。この働き方に行きつくまでには、かなりの紆余曲折がありました。
大学卒業後はフリーターだったのですが、出産を機に正社員として働くことにしました。当時の仕事内容は事務作業が主で、アルバイトスタッフの教育やシフトの調整、顧客対応や営業事務など、多岐にわたる業務を任されていました。
しかし、この時は「おそらく今まで働いた中で最も自分に合わないことをしている」という確信がありました。例えば、アルバイトスタッフが作成してくれた資料をチェックする作業がバグだらけだったからです。
「自分がチェックして営業部門に渡す」という工程なのですが、営業からも顧客からも修正箇所がどんどんやってきます。請求書の作成ミス、顧客からの電話の取次ぎメモが全く意味不明など、本当にひどい状態でした。
何でこんな簡単なこともできないのか…。
本当に仕事ができないダメ人間だ(おそらく周りもそう思っていたことでしょう)と落ち込む毎日でした。そんな仕事を一年程続けたあたりで、発達障害だと診断されたのです。
「どうやら向いていないことをしている」と気が付いた私は、その後、社内でライティングの仕事をさせてもらうことにしました。シフト調整やアルバイトスタッフの相談役など、できることはそのまま継続して、ミスが頻発する事務的な作業はしない方向に持って行きました。
その後は、新卒採用の業務や新規プロジェクトの立ち上げなど、細かいところを人に任せることのできるポジションで仕事に関わることになりました。
在宅デザイナーになるまで
ある程度仕事ができるようになり、「社内の経営ボードに加わらないか?」というオファーがあった頃、第二子の妊娠が発覚します。
正直、私には荷が重すぎる、また、プレイヤー的な働き方が楽しいと思っていたため、妊娠を理由に断りました。おそらく、この話を受けていたら、社内折衝が必要な場面が多くあっただろうと思います。私は、人の間に挟まれたり、機微を伺って会話をしたりということが恐ろしく苦手なので、これは全く上手くいかなかったことでしょう。
その後、切迫早産で早めに産休に入り、育休を経て復職したのですが、この時、コロナ禍でちょうど全社的にリモートワークが推進されていたため、在宅勤務で職場復帰することになりました。
復帰すると同時に、デザイナーが一人退職することがわかり、「以前からデザインの仕事をしてみたかった」と上司に伝えました。実務経験はなかったものの興味があったので、育休中にデザインの勉強をしていました。
私の場合は完全にタイミングが良かったとしか言いようがありませんが、繁忙期ではなかったこともあり、先輩デザイナーから指導を受けながらデザイナーデビューを果たしました。
「なるべく具体的に何を作って欲しいか」を伝えてもらうことで作業もスムーズになり、テキストベースのやりとりなので、瞬発的な対応力や聞き取り、記憶力が求められなくなったのも本当に助かっています。
現在は完全に在宅勤務で、働きやすさの観点から、都度都度会社に改善提案を出しています。
クリエイティブ職とADHD
巷の言説に「ADHDってクリエイティブ系職種が向いてるよね」というものがあります。思考の多動性や、過集中、興味の向いたものにドはまり…というような特性がそう思わせるのではないでしょうか。
確かに、私も「事務職」→「Webライター」→「デザイナー」へと転身しましたが、この中で一番向いていないのは事務職だったと感じています。
とはいえ、私がWebライターやデザイナーにめちゃくちゃ向いているのか?と言えば、これは甚だ疑問です。
事務職をしていた時代はミスの大量発生に社内で混乱が起きるほどでしたが、それに比べるとWebライターの仕事は私自身のミスが致命的にはなりづらいと感じています。原稿の内容だったり、他に原稿のチェックをしてくれる人の存在があったりといった状況があることが理由ですが、現在はそう思っています。
大量のデータに目を通してチェックする作業に比べれば、デザイナーやライターという仕事は、私以外の誰かがチェックしてくれるので、ミスも発生しにくいと言えます。
おそらく、私にとって「向いている」というより、「できないわけではない」という部類の仕事なのではないかと考えています。事務職が向いていれば、あのポジションを続けたいと思っていましたが、私には全く向いていませんでした。
また、働き方によっても、個々の特性ごとに向き不向きが変わってくるのではないでしょうか。
例えば、現在社内のやりとりは全てテキストなので、口頭の指示で混乱することはありませんが、もし電話が中心だったら、私は今も仕事ができない人間として悩んでいたかもしれません。
「ADHDはクリエイター系職種が向いている」というよりも、「業務の責任を一人が負わなくてはならない、ひとつのミスが命取りになる業務に携わることが向いてなさすぎる」というのが一つの答えな気がします。これも私のような不注意優勢の人間の話であって、特性によって異なる答えがあるのだと思います。
また、そもそも「ミスをカバーできる組織・業務フロー」であれば、おおよそどんな職種でもやっていけるのではないでしょうか?
何だか、「クリエイター向いてる」言説には、「クリエイター」という枠の中にADHDを閉じ込めたい社会の空気のようなものを感じて、非常に気持ち悪いのです。