2024年現在、難病患者に対しては、障害者雇用のように雇用義務はありません。
そのため、難病をお持ちの求職者に対して、積極的に雇用をおこなう企業は少ないのではないでしょうか。
採用を検討してしまう観点として、「受け入れ体制が整っていない」「突然休まれたら困る」「採用するリスクが大きい」などと考えることが多いのではないかと思います。
ですが、「難病患者を採用するのが不安」という理由で、難病患者の採用を見送ってしまうのはもったいないかもしれません。
持病があっても、企業が求めている人材である、という可能性をつぶしてしまっている場合も。
また、難病患者の採用に対しては、雇用の義務はないものの一定の条件下で国からの助成金を受けることもできます。
今回は、難病患者の雇用について、人事や採用のご担当者に向けて、当事者目線も交えて助成金制度や難病患者の就労の実態、雇用した際の配慮の例などを解説します。
働きたいけど働けない難病患者
難病は実に多くの種類があり、同じ病気だとしても症状はさまざまですが、共通して抱えている問題として、「働く場所がない」「働いても続けられない」といったものがあります。
「働く場所がない」という点に関して、難病というだけで採用を見送られてしまうケースが挙げられます。
病気によっては、毎日通勤することが難しかったり配慮が必要なケースがあったりと、健常者と同じように働くことが難しく、職種が限られてしまう、という問題も。
また、「働いても続けられない」という点に関しては、健常者と同じ作業量や同じ能力を求められてしまうことから体調を崩し、結果として続かない、という点が課題と言えます。
実際に、筆者も「働いても体調を崩してしまって続けられない」という理由から離職を繰り返していたのが現状です。
ここまで聞くと「続けられない人を雇えない」と躊躇してしまう方もいらっしゃると思いますが、少し待ってください。
続けられなかった理由として、「健常者と同じ作業量を求められてしまっていた」という点が重要となっています。
つまり、合理的配慮さえあれば続けられたかもしれない、ということです。
職場で必要とされている配慮の例
合理的配慮は、2024年4月1日から事業者に対して義務化された制度です。
(出典元:https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf)
合理的配慮とは、簡単に説明すると「健常者と障害者(難病患者)が対話を経て、バリアができるだけ排除できるように配慮すること」を指します。
公共の福祉と同じように、定義化するのが難しい話なのでここでは詳しい言及は避けますが、職場では合理的配慮をしていただくことで、難病患者も健常者と同じように働くことが可能になります。
具体的に必要とされている配慮の例としては、以下の通りです。
ー 全身性エリテマトーデス(SLE)の場合
症状として、関節痛や筋肉痛・全身倦怠感などが挙げられます。
紫外線や疲労によって症状が悪化する可能性があります。
● 重いものを運ぶ等の作業を避ける
● 窓際の席を避け、紫外線対策をおこなう など
ー 潰瘍性大腸炎の場合
症状として、下痢や腹痛などが挙げられます。
トイレにすぐ行ける環境が必要になります。
● トイレの近くに座席を配置
● 休憩時間以外でもトイレに行ける環境にする など
このほかにもさまざまな必要とされている配慮はありますが、病気や個人によっても異なります。
そのため、求職者・難病患者の社員のヒアリングをしっかりとおこない、双方の意見をすり合わせていくことが大切です。
難病患者を雇う際の助成金制度
2024年現在、難病患者を雇用する際に、事業者は一定条件下で助成金を受け取ることができます。
特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)の場合、主な支給額は以下の通りです。
(出典元:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/hattatsu_nanchi.html)
助成対象期間は1~2年間になりますが、トライアルとして難病患者を採用し、定着したら雇用を継続する、という方法も取れるのではないかと考えています。
また、難病患者の採用に関して、厚生労働省からマニュアルも用意されています。
(出典元:https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/p8ocur0000000x70-att/kyouzai56.pdf)
具体的には、
- 難病の定義
- 難病患者を募集・採用する際の留意点
- 業務配置、職場内の調整等における留意点
- 職場定着と就業継続における留意点
- 難病患者を採用した実例
などが詳しく記載されているので、難病患者の採用を検討している方はご一読していただければと思います。
難病患者の採用について、当事者目線で伝えたいこと
難病患者の当事者として、一般企業に就職するも、結局離職してしまうことが多い、ということを挙げました。
筆者自身、病気のことを伝えて就職してもお願いした配慮が行き届かず、結局健常者と同じ業務量を求められてしまうため、体調を崩して辞めざるを得なくなってしまうケースが多々ありました。
こういったケースは難病患者だけでなく、障害者雇用の場合でも多いと聞きます。
難病患者目線で、企業として配慮をお願いしたいことは、大きく分けて2点です。
- 急な体調不良や通院でもカバーできる業務量を付与する
- 難病患者との対話をしっかりとおこない、配慮についてのすり合わせをおこなう
当事者側が企業に求める配慮を伝える、ということは大前提で、それに加えて企業側に対しては万が一の場合に備えてカバーできるような業務量を付与して欲しい、という点です。
誰か1人が抜けたら回らなくなるような業務ではなく、調整が効きやすいポジションに配属できるとなお良いですね。
そして、配慮については難病患者と対話をしっかりとおこない、実際に可能な配慮をすり合わせていくと良いでしょう。
また、これらの配慮は、既存の社員の負担にならない程度にすり合わせていくことが大切です。合理的配慮は目立ってしまうケースがあるので、「あの人ばかり」「優遇されていてずるい」という既存社員からの妬みのタネになりかねません。
筆者は実際にそういったトラブルに遭遇したため、社員同士の摩擦を減らすためにも「どの人も平等に」という観点で配慮の内容をすり合わせていけたらいいのではないかと思います。
さらに、在宅勤務の体制が整えられるのであれば、可能性を大きく広げられるのではないかと考えています。
例えば、わたしの場合は全身性エリテマトーデスに疾患していますが、通勤を伴う勤務体系は身体への負担が大きく、病気が悪化して離職を繰り返していました。
しかし、リモートワークに切り替えた結果、大きな再燃はなく仕事を続けられています。また、職場内での個別配慮による、他の社員からの妬みなどに対してのケアも可能です。
同じオフィスにいるとどうしてもトラブルに発展する可能性が否めませんが、在宅勤務にしていただくことでそういった人間関係のトラブルも減らすことに繋がるのではないかと考えています。
制度改善を求めるが、難病患者を雇うことはリスクではない
難病患者の就労について、まだまだ制度が整っておらず、なかなか採用に踏み切れない企業が多いと思います。
障害者雇用のように雇用が義務化されれば、難病患者としては就労しやすくなるのではないかと思うので、制度の改善を願うばかりです。
企業としても、「健康な人が欲しい」というのが本音なのも理解していますが、難病患者は就労に困っている人がほとんど。
そして、条件さえ整っていれば働ける人はいくらでもいます。
実際に、筆者はフルリモートであれば働けています。
難病患者を雇うことはリスクではなく、企業に足りていないポジションや能力を補うチャンスです。
ぜひ、助成金制度やトライアル雇用などを活用し、優秀な人材を埋もれさせることのないよう、難病患者にもチャンスをいただけると幸いです。