目が不自由な私が、東京と地元の静岡県伊東市を何度も新幹線で往復しながら就職活動し、やっと就職できてから8ヶ月後に伝えられた「明日から出社しなくていいよ」という言葉。
順風満帆とは程遠い、波瀾万丈な私のキャリアについてご紹介します。あの頃を思い出すと、障害者って働きやすくなったのではないか?なんて思います。
※この記事は、2021年3月に公開されたものを再編集しています。
職場からの不安が伝わってきた入社初日
東京と地元の静岡県伊東市を何度も往復し、やっとの思いで就職した会社は、主にエステサロンや美容室などを全国展開している企業の東京支社でした。2008年10月1日入社、22歳のときのことです。
私が入社したとき、内部障害の男性が2名、障害者雇用で働いていましたが、視覚障害者を受け入れた経験はなかったようで、不安がありました。
配属された部署でも、障害のある人に接した経験がない人々の中に、私一人が放り込まれたような状態。上司も「今日から働いてもらうけど大丈夫?」と不安そうでした。
不安だからなのか?
障害があるということで何か糸口を探そうとしていたのか?
その真意は分かりませんが、上司や先輩が何か私に尋ねるときには、障害者雇用で入社した内部障害の男性とともに、私に話しかけてくることが多かった印象でした。

採用担当者と現場の障害把握のズレ
聞いていた面接の結果よりも、履歴書に書かれているよりも、実際の私の障害の状況に、上司も先輩もうろたえている様子でした。
パソコンに表示されている大きめの文字でも見えないという状況であることに、入社後に初めて気がついた、そんなところだったかもしれません。
採用したからには仕事をさせないといけないけれど、仕事の切り出し方法がまったく分からない。さー。困ったぞ。部署全体で丸くなって私にできる仕事はないか、2週間ほど話し合っていました。
その間、私は出社して座っているだけ。
上司がなんとか考えを巡らせて切り出した業務内容は、売上伝票のチェック(店長氏名記入・店長印押印の確認等)でした。しかし、私の目は、めがねをかけようが虫眼鏡から文字を見ようが伝票をチェックすることはできません。
上司が市販で売られている虫眼鏡を持ってきて試すように言い、それでも文字が大きく見えないということも社内全体で驚いている様子でした。視力障害を老眼や、近視などと同じように考えていたのかもしれません。
今では考えられないかもしれませんが、当時はそんな職場もあったのです。
盲学校時代に「拡大読書機」というディスプレイに文字が大きく映し出される台付きのテレビのような機械があったことを話し、会社としてレンタルできないか提案しました。
見世物のような私
ある財団から、初期型の拡大読書機をリースしてもらって、会社で使うことになり、いざ現物が会社に届くと、オフィスの人々がまるで野次馬のように集まってきました。
本体価格に驚き、ぼったくりだ!松田さんて高級志向なんだ?若いのに…とこそこそ口々に言う状態。とにかくすべてが初めてのことで、私がやることにいちいち大きなリアクションが返ってくる毎日でした。
その裏で、拡大読書機をなんとかリースしてくれた上司は、「リースの期間が決まっていてずっとはレンタルできない。どうしよう…」と困っていました。

初めての業務と突然の退職願い
拡大読書機が届いて初めて行った業務内容は、売上伝票のチェック(店長氏名記入・店長印押印の確認等)でした。
これは全国の店舗から東京支社の売上管理の部門に、毎日、段ボールで大量に届けられる売り上げ伝票をチェックして、不備を各店舗の店長さんに伝えるという業務です。
1日の仕事量は書類で約200~400枚。なかなかこなせない量の仕事で困っていたタイミングで視覚障害とは異なる女性の障害者が2人入社しました。
売上伝票をチェックするチームとして、私と、私の後に入社した2人の合計3人で、一日中、伝票のチェックをすることになりました。
毎日、朝の朝礼後に席に着いたら、終業時刻までひたすら伝票のチェック。年齢の近い女性同士だったこともあり、なにげない会話も弾み、チームワークもだんだんと良くなってきました。
そんな業務にも慣れてきた頃、朝礼の折、社長が社員全員の前で頭を下げました。
リーマンショックのあおりを受けて会社の経営が苦しいさなかで、経営陣の3人が、他の企業の引き抜きを受け、これ以上、この従業員数では、会社を続けていられなくなったと。
すぐ後に、伝票チェックチームだった私たち3人は、一人ずつ上司に別室に呼ばれました。
「そういうことだから。明日から出社しなくていいよ。」
そう言われ、退職届を渡されて、今すぐに書いて退社してくれと言われたのです。
2009年6月18日のこと。勤続年数はわずか8ヶ月でした。
ドラマでみたことがある「きみは明日からもう出社しなくていいよ」という台詞をまさかリアルに聞くことになるとは・・・あっけにとられたのを今でも鮮明に覚えています。
そこからまた私は、転職活動に励むのでした…
