かんじんなことは、目には見えない〜ゲイの僕のハレ(非日常)とケ(日常)〜3

暗闇の中で人差し指を唇に当て、黙るようにジェスチャーしている男性。初めてのカミングアウトを象徴する場面です。

第3回:はじめてのカミングアウト

カミングアウトとは、自身がセクシャルマイノリティであることを伝えていることを指す。
法務省のWebサイトには、以下のように掲載されている。

カミングアウトとは、Coming out=“coming out of the closet”のことです。社会の差別・偏見や周囲の無理解から自分のセクシュアリティを隠さざるを得ない状態を「クローゼットに押し込まれている状態」にたとえ、そこから出て、陽のあたる場所に自分を置く決意をいいます。

カミングアウトは、自分のセクシュアリティを受け入れ、肯定する過程でもあり、自分らしく生きていくための手段の一つです。

しかし、カミングアウトするかどうかや、いつ、誰に、どのように伝えるかは、当事者本人が決めることであり、周囲の人が、カミングアウトを強要するようなことは、決してあってはなりません。

今回は私自身のカミングアウト体験について、何回かにわたって、お伝えしていきたいと思います。

伝えたい。けど伝えられない。

このコラム執筆時には37歳。

今となってはゲイであることをオープンにしていますが、30歳あたりまで誰にも自分がゲイだということを伝える、つまり、カミングアウトをしたことはありませんでした。

学生の時も、社会人になりたての時も、人と交流していくうえで、かなりの確率で聞かれる「彼女いるの?」というワード。このご時世、会社内で聞くのはNGとされていますが、実態としては、飲み会の席で聞かれることはいまだ多いのではないでしょうか。

突き詰めれば「人間関係を深めていく」という思惑で聞く質問だとは思うのですが、僕自身、その質問をされるたびに、どんな答えをしていくべきか、毎回、試行錯誤をしていました。

「いないっすねー」と答えれば、「どんな子(異性)がタイプなの?」と、お決まりの文句のようにつっこまれることも少なくありません。

(異性は恋愛対象じゃないんだけどなー・・・)と思いつつ、時には、人として好きな女性タレントを挙げたり、当時付き合っていた彼氏の特徴を”彼女”と見立てて、答えていたりしていました。

ところが、そういうその場しのぎというのはほころびが生まれるもので、職場の先輩たちから、「この前こんな子って言ってなかったっけ?」と聞かれた時の冷や汗感は、いまだに感触として残っています。

聞いてくる相手も、悪気があって聞いてくるわけではないため、誰も悪くない状況ゆえに、なかなか良い打開策を見出せないままいました。

ましてや、友達同士の間では、そういった話題は盛り上がりやすい話題です。

仲良くしていきたいと思っている友達に対して、本当のことを言いたい。けど、言ったら嫌われるのではないか。身近な人だからこそ、言いたい。でも、言えない。

そんなふうな苦い思いをした人は、当事者は、多かれ少なかれあるのではないかと思います。

カフェのテーブルに置かれたカップとスプーン。背景には他の客が座っている様子。初めてのカミングアウトの場面を象徴しています。

利害関係がないからこそ言える

そんなある日。近所に、大好きな餃子を出してくれるバーを見つけ、酒好きというわけでもないのですが、美味しい餃子を食べたさに、ちょくちょく通っていました。

バーといっても、雰囲気は木目調の店内で、照明もほどよく明るく、カウンター越しのマスターや隣客の人と気軽に喋ることのできるアットホームなお店です。

マスターは、当時40歳前後くらいの男性で、整えているヒゲと黒縁メガネが似合う、一瞬、近寄りがたい雰囲気があるのですが、話してみると話しやすいイケメンさんでした。

ある日、いつものように飲みにいくと(餃子を食べにいくと)、店内には、僕しかおらず、マスターと二人きりで、色々と会話をしていました。そして、ふとマスターが「今、彼女いるんだっけ?」と聞いてきました。

今までの僕ならば、「いないです」とか、なんとか、はぐらかしていたのですが、お酒の勢いと会話の弾みで、「あ、自分、恋愛対象は女性じゃないんですよ」と言いました。

当時は、自分のことを「ゲイ」と表現するのがまだ抵抗感があったのだと思います。なので、回りくどい言い方をしてしまいましたが、それが生まれて初めてのカミングアウトでした。

マスターは商売柄か、「あ、そうなんだ」と特に驚いた様子もなく、ただただ受け止めてくれて、その後も、今は覚えていないくらい、当たり障りのない会話をしていた気がします。

今思うと、そのマスターに言えたのは、”近所の行きつけのお店の人”で、自分の人生を取り巻く人間関係の中で、利害関係が非常に薄いという、ずいぶん打算的な考えから言っていたのだと思います。

万が一、そこでネガティブな反応を受けても、僕の人生の中での影響は少ない。そして、僕のこれまでの人間関係との接触も考えづらい。つまり、周りに広まることもない。

そんな風に考えてのカミングアウトでした。

バーで向かい合って話している2人の男性。初めてのカミングアウトの場面を象徴しています。

友達への初カミングアウト

あっさりと終わった人生初のカミングアウト。

だからといって、その後、他の人も伝えてみようという気概にはなりませんでした。やはり言った後の反応が怖かったのだと思います。

しかしある日、友達にどうしても伝えなければならない場面がありました。

それは異性の友達が、私に対して、友情ではなく、恋愛感情を持ってくれていると悟った時です。

就活時代のご縁でつながった彼女は、誠実で、かつアクティブに色々な活動をしている人でした。アメリカにも留学していた経験もあり、社会人になって、職場以外の人間関係を築くことがなかなか難しい中で、あえてご飯に行ったりするような仲でした。

何回かご飯にいく中で、彼女から告白をされました。誠実な告白に、私自身も誠実に答えていきたい。そういう思いで、「自分はゲイである」ということを伝えました。

すると、彼女は、「あ、そうだったのね」という驚きとともに、「私の周りのゲイの友達がいるから、是非紹介したい」とも言ってくれました。

アメリカに行っていたということもあって、俗にいう「多様性」に慣れている感じがしていましたが、私のカミングアウトについても、好意的に受け止めてくれました。

今思うと、好意の裏返しでネガティブな感情を抱いてしまう可能性もあるリスクの高いカミングアウトだったかもしれませんが、まったくそういったことはなく、その後もずっと応援し続けてくれる存在になっている彼女の人間性には、感謝しかありません。

友達と呼べる存在への初めてのカミングアウトも、ポジティブな反応で終わり、本当に良かったのですが、そうはいっても、まだ「じゃあ他の人も伝えてみよう!」という気にはなりませんでした。

ところが、その考えがガラリと変わった出来事がありました。

そちらを次回以降に伝えていきたいと思います。

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ABOUT ME
誰にも言っていなかったゲイ当事者ということを、32歳の時に周りにカミングアウト。現在は、オープンリーゲイとして、研修講師や取材を受けている。本業のかたわら、ラジオパーソナリティとしても活動中。ネットラジオは毎日配信を380日以上継続中。麺類全般が好きで、毎日食べていても飽きない。流行りものが好きで、現在はサウナにハマり中。