私は、全盲の視覚障碍者ですが、可能な限り白杖を使いながら一人歩きをしています。
はじめての場所に行くときなどは周囲の状況が分からなくて困ったり、道に迷ったりすることがあります。そういったときには周囲の人に声をかけて助けてもらっています。このことを援助依頼と言います。
駅や道端で知らない方に声をかけることは勇気が要ります。最初は私も援助依頼をしたくても周囲に人がいなかったり、人はたくさんいるけれど声をかけるタイミングが見つからずにうまくいかなかったりすることが多くありました。
今回は、私が援助依頼をする上で困ったことや、援助依頼をするときにどんな工夫をしたかなど、援助依頼が出来るようになるまでのことについて書いてまいります。
私が援助依頼をできるようになるまで
私は盲学校の小学部の頃に白杖を使いながら一人で歩く練習を始めました。最初は学校の敷地内を歩き、学校の敷地の周辺、信号を渡る練習、学校と最寄り駅の往復と、徐々に歩行範囲を広げていきました。
中学校に入り、本格的な歩行訓練が始まると同時に、援助依頼を行う訓練も始まりました。歩行訓練を始めたばかりの頃は先生が色々と周囲の状況について教えてくださっていたのですが、少しずつ先生に頼らずに歩く練習をしていくのです。
学校から駅前のショッピング施設まで行き、買い物をして帰ってくるという流れで練習をしたことがあります。ショッピング施設までは、何回も歩行訓練で行っていたので、問題はありませんでした。
しかし、そこで買い物を一人でしたことがなかったので、目的の店舗と商品を探すときになって困ってしまいました。そのときの苦労は30年以上経った今でも忘れることが出来ません。
なんと言っても、声を出す勇気が湧いてこないのです。「なにか言わなくちゃ」という気持ちだけが先行して声が出てきませんでした。遠くから観察している先生は、声をかけてくれません。
たまたまそのときは、他のお客さんが声をかけて下さり、その後の商品選びもスムーズに行うことが出来ました。
その後も、援助依頼の壁は高いままで、学生の間はなかなかうまく援助依頼をすることが出来ませんでした。
大きく変わったきっかけは、社会人1年目に一人暮らしを始めたことでした。一人暮らしですので、家のことは全て自分でやらなくてはいけない状況で、買い物も全て自分でする必要があります。
そのときに、恩師からいただいた言葉を思い出しました。
「社会の人たちは思ったより親切だなと思うことがたくさんあるよ。だから、自分が困ったときは積極的に援助依頼しなさい」
それからは、たとえ無視されても気持ちが萎えることがなく、徐々に自分から援助依頼を行えるようになっていきました。
援助依頼をする上で工夫したこと
援助依頼をする上で必要になるのは、声をかける勇気です。勇気を振り絞って、声をかけたのはいいけれど、無視されたりやんわり断られたときは大変がっかりした気分になります。
それでも、諦めずにチャレンジし続けることが必要です。
他には、私の体験での感覚では、声をかけるときの言葉の選び方によって援助依頼がうまくいくようになると思っています。
「すみません」と呼びかけると全部ではありませんが、かなり高い確率で無視されることが多いです。「すみません」という言葉は、謝罪の言葉として使われることが多いです。こちらとしては呼び止めるために声をかけているつもりが、声をかけられた側にとってはぶつかりそうになったので謝られたという認識になるのかもしれません。
私は「よろしいでしょうか」または、「助けていただきたいのですが」という言葉を使うようにしたら、足を止めていただく方が増えたように思います。
援助依頼がうまくいったときは、本当に心から安心することができます。
まとめ
援助依頼を行うには大変な勇気がいります。私が学生の頃は、援助依頼の声かけの方法を指導されたことはありませんでした。
今になって考えてみると、この問題は声をかける側の自分の心持ちか、もしくは声をかけられた人の状況や性格になってくる部分が大きいので、学校ではなかなか教えにくいことだったのかもしれません。
しかし、学生最後の日に恩師からいただいた言葉を思い出すことがきっかけで、一気に援助依頼をすることへのハードルが下がったと思います。
このように、視覚障碍者にとって援助依頼を行うことは大変なエネルギーを要することになります。もし、この原稿を読まれている方が街で白杖を持っている人や盲導犬と歩いている人を見かけましたら、お声がけをして下さるととてもありがたく思います。また、一人での外出がしやすい世の中になっていくことを願います。