2020年6月。社会人2年目を迎えた23歳の初夏。滑膜肉腫というガンの治療のため、左足を膝下から切断しました。今は、義足を履いてサラリーマンをしています。
このコラムでは、義足ユーザーが働く上でどのような困りごとがあるのか、私の例を踏まえながら解説していきます。
はじめに
私は現在、徒歩で通勤しています。
実家から電車で通うという選択肢もありましたが、あえて一人暮らしの部屋を借りて、会社の近くに住みました。
義足ユーザーにとって「歩いて通える」ということは、それだけで価値のあることだと私は思います。
義足ユーザーの通勤時の苦労①痛みとの戦い
義足を履けば、たとえ片足しかない人だとしても、健常者と同じように歩くことができる。足を切断して1年経たない私にとって、義足は魔法のようなアイテムです。
しかし、義足を履き続けると痛みが発生します。時間にして約20分。履き続けるだけでもう、痛みが出てきます。
私の場合、義足で膝から下全体を浮かすように支えていますが、長時間義足を履いていると圧迫されてだんだんと足が細くなります。むくみが取れるようなイメージです。
その結果、足が義足の中を沈んでいきます。浮かすように支えていた断端(足を切断した場所であり、現在の足の先端)が、義足の底についてしまうのです。断端は弱く、とても体重を支えるなどできません。結果として痛くて歩けなくなってしまうのです。
これは、切断からそれほど時間の経っていない初心者義足ユーザーに起こりやすいもので、足があった頃についていた筋肉がまだ衰えきっていないことが原因です。断端は柔らかいほうがいいのです。
そんな時、私は一度義足を脱いで、靴下のような布を足に履かせて、義足の底と断端との隙間を埋め、断端を浮かせます。この作業をしなければ、痛くて歩けません。
どこかに座って、義足を取って、切断した足の断端に布を履かせる。
考えてみてください。街や駅の片隅で、人が突然座って、おもむろに足をとったら、切断された足が出てくる。私自身、この光景を見る側だとしたら、ホラー映画のように感じてしまうことがあります。したがって、なかなか街や駅の片隅でこの作業はできません。
だからこそ、私にとって、自宅と職場が徒歩で通える距離であることに、大きな価値があるのです。
電車で通うと、長時間義足を履いたままで移動せざるを得ませんし、痛くなったタイミングでちょうどよく人目につかない場所を見つけ、断端に布を履かせられるとは限りません。
まだ、私自身が初心者義足ユーザーということもあります。ベテラン義足ユーザーからみると、慣れの問題と言われてしまうかもしれません。ただ、外からみれば義足ユーザーと一括りにできても、そのキャリアはバラバラです。困りごとや不便なことも微妙に違います。
義足ユーザーの通勤時の苦労②義足の角度調整
革靴など、かかとが高い靴を履く時、通常は足首を曲げ、爪先立ちのような状態になって、靴を履きます。健常者にとってはわざわざ細かく説明する必要のない、自然な行動です。
しかし、義足ユーザーがかかとの高い靴を履く場合、足首の角度が固定されたまま履くことになります。靴を履くときに足首が自然な角度になるような仕様ではないのです(少なくとも私の義足は)。
皆さんも、ぜひ一度、足首を動かさずに、靴を履くことを試していただきたいです。かかとの高さの分だけ、前かがみになってしまうはずです。
私は、革靴を履くとき、義足の足首の部分の角度をあらかじめ変えてから履きます。この角度調整がまた難しい。
そして、角度を変えた際、ネジの締め方が緩いまま歩き出すと、体の重さでネジがさらに緩んでしまい「パキッ」「パキッ」と一歩進む度に音が鳴ります。
普通に歩いてるように見えるけど、なんであんな「パキッ」という音がしているんだ?
私とすれ違う人からすれば、疑問しか湧かないと思います。そんな時いつも、一刻も早くネジを締め直したいという気持ちで一杯になります。
パキパキと音を鳴らしながら歩くこと、人目につかない場所を探すことは、とてもしんどいものです。移動距離が短ければ、精神的負担もいくらか軽くなるのですが、見つからなければ、前半でお伝えした足の痛みも出てきて、ストレスは倍増です。
まとめ
今回は、義足ユーザーの通勤時の苦労についてご紹介しました。これは私の事例ですが、義足ユーザーにとって通勤は、大なり小なり、必ず困りごとがあり、ぶち当たる壁です。通勤という以上に、歩くときの困りごととも言えるかもしれません。
このコラムが少しでも皆様の参考になれば幸いです。