私は全盲の視覚障碍者ですが、1995年から2019年までの約25年間、あはき業に従事していました。あはきとは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、灸師の略になります。
古来より日本では、多くの視覚障碍者があはき業に従事してきました。それこそ、何百年という歴史があります。この長い歴史を経る間に、「視覚障碍者はあはきの仕事に向いている」という意識が定着していったのではないかと思います。
これまで視覚障碍者とあはき業のつながりを疑問に感じたことはありませんでしたが、最近ふと考えることがありました。今回は「視覚障碍者にとってあはき業は向いている仕事なのか」について書いてまいります。
あはき業をするために、必要なもの
全体的に見れば、私はあはきが視覚障碍者に向いている仕事だと思っています。それには、これからお伝えするあはき業に必要なものや、あはき業で求められることが関係してきます。
あはきの仕事をするためには、国家資格の免許が必要になります。あはきの免許はあん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師の三つです。
あはきの免許を取るためには専門課程を学べる学校に通い、国家試験に合格する必要があります。そこで初めてあはきの仕事に従事することができるようになります。
あはき業で求められるもの
あはき業の仕事で求められる要素は3つあると思います。
- しっかり、お客様とコミュニケーションを取る
- 適切に悪い状態の所を見つけ、施術する
- 経営について学び集客を増やす
上記の3つは障害の有無に関わらず、あはきの仕事で求められることです。これらの要素がうまくかみ合えば問題ないのですが、そうそううまくいかないのが現状です。
私が、あはき業に進んだ経緯
学生の頃、私の希望進路はあはきの道ではなく、情報処理系の学校への進学でした。
ただ、私は10代の頃、目の病気の他に先天性の病気も持っていて、今よりも頻繁に通院していました。身体が弱く、地元から離れる気持ちになれなかったので、そのまま地元の学校に進学し、あはきの道に進むことになりました。
もともと希望していた進路とは違いましたが、「しっかりあはきで仕事が出来るように頑張ろう」という気持ちでした。
ちなみに、今ではこの病気はほぼ改善し、日常生活に支障なく過ごしています。
私自身、あはきの仕事が楽しかったか考えてみた
あはきの仕事が楽しかったかどうかについて、考えてみました。
結論から言えば楽しかったです。大先輩から見れば短い年月になりますが、25年間のあはき業で得られた経験は人生の大きな宝です。
時には心ない言葉を浴びせられたこともありましたが、「先生の腰への鍼治療で歩くのが楽になったよ」などと言って下さるお客様も多くいらっしゃいました。
ポジティブな言葉もネガティブな言葉も、どちらも自分自身の糧になっているのではないかと思います。
世の中の流れから、あはき業と視覚障碍者について考えるようになった
ここ数年、障碍者雇用について世の中が大きく動いています。その流れの中で、私自身あはき業と視覚障碍者の関係について考えるようになりました。
私が免許を取得した約30年前は、選択肢はあったものの「視覚障碍者=あはき業」という環境でした。一方で現在は、ICT技術も進歩して、あはき業以外の仕事につける幅も広がりつつあります。
しかし、事業者側の視覚障碍者に対する理解が追い付いていない状況などもあり、視覚障碍者の就労状況の改善はまだまだこれからといった印象があります。今は視覚障碍者が従事している職業分布が変化していく過渡期なのではないかと思います。
まとめ
あはき業は、昔から多くの視覚障碍者が従事してきた職業です。自ら積極的にあはき業を選んだ人もいれば、消極的な背景があった人もいるはずです。
消極的な理由であはき業に従事した人達の中でも、実際に働き始めてみたら、やりがいを見つけられてその仕事が好きになった人と、やっぱりなじめないという人とに分かれてきます。
多面的に考えると、視覚障碍者の仕事として、あはき業以外の職業に従事する広がりは必要でしょう。まだまだ視覚障碍当事者の中にも「視覚障碍者はあはきの仕事に向いている」という意識はあるように思います。
将来的には、複数の職業の選択肢の中にあはき業があり、「あはき業もあるよ」という環境になれば良いと考えております。