複雑性PTSDの治療はどのように進み、当事者は治療中にどんな変化を感じるのか。今回は私が4ヶ月ほどカウンセリングを受けたことによって変わってきた思考の変化をお伝えする。
「私が全部悪い」の感情に苦しめられていた日々
持続的な虐待やDVなどのトラウマ体験をきっかけとして発症する「複雑性PTSD」は2018年、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)に新しく導入された診断名。効果的な治療は国際的にも、まだ研究段階だと言える。
私の場合は、心の中にいる「インナーチャイルド」という過去に傷ついた自分を探して癒すという治療法で寛解を目指すことになった。
治療開始時、私はどちらかというと、この治療に懐疑的だった。書籍やメディアなどで見聞きしたことはあっても、インナーチャイルドという存在が自分の中にいるとは思えなかったし、どこかスピリチュアルな感じがして、本当に効くのだろうかと思っていた。だが、治療を進めて行くにつれ、インナーチャイルドが癒されることの重みを知る。
カウンセリング前、私の思考は平たくまとめれば、こんな感じだった。
- 親は私を愛そうと頑張ってくれたけれど、障害がある私は家族のお荷物
- 父親への激しい怒りは口にできるけれど、母親への怒りは言葉にできない
- 親を愛せない自分は冷たい人間だ
- 時々、コントロールできない希死念慮がこみ上げてきて消えたくなる
- 周りが不快な気分にならないように自分が前もってフォローしないといけない
- 母親の愚痴は聞いてあげないと可哀想
- 社会は冷たくて嘘つき。人は誰も信頼できない
- 誰かに見られてもいい私を家の中でも常に演じている感覚が苦しい
- 体調の悪さは隠さなければいけない。具合が悪くても甘えてはいけない
- 自分の顔が醜くて気持ち悪いから、定期的に誰かに感想を言ってもらって見え方を確かめたい
とにかく、自分はすべて悪いのだと思っていた。愛されないのは自分に劣っているところがあり、当然のことなのだと。自分が大嫌いで早く消えたいのに、その1歩が踏み出せない弱虫な私が嫌だった。
インナーチャイルドを癒すことで思考が変化し始めた
治療ではインナーチャイルドを介して、そうした心の中の気持ちをカウンセラーに伝えた。泣きたくないから、毎回「メイクをしてるから泣かないようにフィルター」が自分の心にかかるように、ばっちり化粧をしていく。なのに、いつもとめどなく涙と鼻水が流れて、顔面がぐちゃぐちゃになる。
ぐちゃぐちゃになった顔をカウンセラーに見られたり、クリニックからの帰り道に道行く人に晒したりすることに抵抗があったけれど、これを乗り越えないと自分は一生、楽になれないのだと思い、頑張って通院し続けた。
すると、少しずつ思考に変化が現れてきた。4ヶ月ほどカウンセリングに通った私の思考は、以前よりも自分を責めないものになった。
カウンセリング開始4ヶ月後の思考
- 親は私を上手く愛せなかった(愛していなかったと認めるのはまだ怖い)
- 母親に対して募っていた苛立ちも言葉で出していいものなんだと思えた
- 私はそんなに悪くない
- 自分の顔にもいいところはあるだろうから、隠すのではなくて良さを活かせるメイクがしたい
- 親の問題は私の責任ではない
- 子どもの心を傷つけていい権利は親にだってない
- 自分が経験してきたことは子どもの私ではどうにもできずに堪えがたいことだった。よく頑張ったと自分を褒めてあげたい
- 色々なことを急いで完璧にやろうとしなくてもいいのではないか
- 自分がすべてのことをフォローしなくても、人に任せてもいい
努力をしなければ愛されないという考えは、正直まだ変化していない。あるがままで存在しているだけで愛されると悟れる境地には立てていないから、愛されるために頑張ってしまう。けれど、少しずつ自己卑下が和らいできたことで生きやすくはなってきた。
私は欠陥品。いつか、記事にそう書いたことがある。でも、それは周囲からコントロールされ、思わされてきた誤りだったことに気づいた。そう気づけて、自分を蔑まず、物だとも思わなくなれつつあることが嬉しい。
私の場合は、カウンセラーに年単位の治療が必要だと言われている。治療中は嬉しい変化を感じるだけでなく、傷ついた過去がフラッシュバックして苦しくなったり、なかったことにしてきた本音に気づかされて体調不良になるほど辛い日もあったりする。
だが、自分が知らなかった本当の私を知るのは少し楽しい。産み落とした親に愛されなくても、私が私を愛せればそれでいいと、いつか言えるようになりたい。